「課題基盤型研究」がアジアとの連携を促進する
ここまでの事例(科学技術協力における 農学研究者への期待・エネルギーの地産地消によりベトナムの農家の生活向上を実現する・日本の養殖技術でタイに次世代養殖システムを構築する・アジアへ浸透するジャパンブランド)では、大学研究者は強みを活かして中長期的にアジア諸国との信頼関係を築いたうえで、現地のニーズをうまく汲み取った共同研究を進めている様子を紹介してきた。また企業に関しては、品質・生産技術の高さを活かした日本ブランドを展開し、貢献性の高い事業を推進している事例を紹介した。最後に、日本が進めるべき戦略的貢献の柱として、農学研究を軸とした「課題基盤型研究」を提言し、そのための方策を議論したい。
農学に追い風が吹くマレーシア
成長著しいマレーシアでは、政策の観点からも、日本の農学・食品関連の研究者そして企業に追い風が吹いている。現在マレーシアでは、1981年に同国マハティール前首相が提唱した東方政策(LookEastPolicy)と呼ばれる構想が再び息を吹き返している。欧米の追従だけではなく、日本をはじめとする東方アジア諸国の成功と発展の秘訣を学び、マレーシアの経済発展と産業基盤の確立に寄与させようとする政策で、日本政府も協力的だ。元来の親日感情も相まって、質の高い日本の科学技術に対する期待は大きい。さらには、2005年からのNationalBiotechnologyPolicyでは、9つの政策イニシアチブのうちの冒頭に農業があげられ、バイオテクノロジーを通して農業の価値を高めていくことを目指している。2020年までの政策実施期間を3つに分け、現在は科学技術の事業化フェーズに踏み込んでおり、国内外での連携支援も手厚くなってきているのだ。
海外展開のカギはネットワーク構築
一方で販路開拓や輸出手続きの煩雑性、言語や商習慣の違い、そして何より現地でのネットワーク不足が日本の企業や研究機関にとっては高い障壁となる。そこで株式会社リバネスは、昨年2013年秋にマレーシア
法人(LeaveaNestMalaysiaSdn.Bhd.)を設立、積極的なネットワーク構築を開始した。また、「地域力活用市場獲得等支援事業(中小企業販売力強化支援モデル事業)」に採択されており、日本有数の科学技術をもつ中小企業とともにマレーシア、インドネシア、シンガポールを訪問し、現地の政府機関や企業、研究機関とのネットワーク形成を推進している。マレーシア視察には、株式会社常磐植物化学研究所、ミナミ産業株式会社、株式会社ユーグレナ、株式会社協同インターナショナル、フタバ食品株式会社といった、優れた農学・バイオ・食品科学分野の技術をもつ企業が参加した。実際に現地では、政府機関のバイオ振興公社や、農業・食品分野に明るいプトラ大学との直接の議論を通して現地のニーズが明確になった。熱帯気候のマレーシアでは古来より数多くのハーブが生活に取り込まれているが、最近はエイジングケアやダイエット目的でハーブの人気は高まっており、専門に研究開発を行う政府機関も設立されている。今後は基礎研究から健康食品などの商品化の段階へ転換が必要だが、依然として有効成分の特定ができていないものも多い。植物由来成分の単離・精製において傑出した技術をもつ株式会社常磐植物化学研究所の研究者によるプレゼンテーションは、同社が植物成分の抽出・分離・精製に関する幅広いノウハウを蓄積していることから、現地の農業担当の高官や食品科学研究者から高い注目を集めた。機能性の分析や評価、メカニズム解明に向けては、日本の研究開発力が本領を発揮できる点であろう。両国の研究機関・企業が戦略的に連携することで、高い社会価値を産む可能性が見いだされたのである。課題から産まれるニーズを発掘するには、現地の関係者との直接的なコミュニケーションが、何より重要なのだ。
課題ありきで進める研究こそ社会を変える
特集を通して見てきたように、現地の生産者や研究者と直接的なネットワークをもつことで、各地域での課題や市場の動きはさらに明確になる。その技術やサービスの使い手が見え、ニーズに合わせたより効率的な研究開発や商品開発ができる。日本国内に優れた研究や技術があっても、そもそもそれを実用化するに相応しい資源や機会が乏しい場合もあり、アジアのように生物資源が豊富であり市場拡張性の高い国々を視界に入れてこそ、自身の研究成果や技術の出口に新たな可能性が見えることも多い。
社会とともに科学技術が持続可能な発展を続けるには、もはや技術開発ありきの研究だけでは成り立たず、まずは現地の課題やニーズをふまえ、生み出したい社会像を明確にすることが大切だ。このように進める研究が、「課題基盤型研究」であり、日本がアジアの農林水産に貢献する最も根幹的な軸となるだろう。そのためには、本稿にある通り、国内に留まらずグローバルな視野で社会のニーズを知ることが重要である。現在は国際的研究費の活用から直接訪問まで機会はいくらでもある。こうして国境を超える研究者が増えてこそ、日本の農林水産技術は本当の意味でアジアを変えるものとなるだろう。
お問い合わせ先
リバネスでは、アジア諸国の研究機関との共同研究や、技術の事業化に取り組みたい研究者の方を募集しています。
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担当:株式会社リバネス 地域開発事業部