新しい挑戦に躊躇しない町工場 金星ゴム工業株式会社

新しい挑戦に躊躇しない町工場  金星ゴム工業株式会社

窓のサッシ、車のタイヤ、パッキン、椅子の脚のクッションなど、ゴムは私達の身近な生活に欠かせない。熱や薬品による変性に強いフッ素ゴムなど特徴のあるゴムの製造や、ゴムの成形方法すべてに対応可能という技術力の高さを強みとし、ゴム業界で存在感を示している同社の成果には、新しいことに躊躇せずチャレンジする代表取締役社長の杉本浩志さんの創意工夫があった。

ベテランと肩を並べる

祖父の代から創業した同社では杉本さんの入社当時、創業当時からいるベテラン従業員が半分以上を占めた。ゴムの製造には素材の計量、混合、成形、検査、といった工程があり、それぞれが分業され、その道一筋の匠がたくさんいた。そんな環境に飛び込んだ杉本さんは、はじめ信頼を得られず、話を聞いてもらえないこともしばしばだった。1つの道に精通した匠に実力ではかなわない。どうしたら信頼を得られるか悩んだ杉本さんは、1つの工程に長く関わるのではなく、1年ずつ異なる工程を行う部署を巡らせてもらうことにした。多様なゴムの種類やお客さんの要望する形状を1通りこなすには1年間同じ部署にいないとわからない。しかし、5年も同じ場所にいたらいつまでもベテランとの距離は縮まらない。結果、すべての工程を理解する人として、どの部署の人とも話ができるようになり、一目置かれる存在となった。

HP(ホームページ)開設がピンチを救う

現在同社はゴム業界でも知らない者はいないほどの地位を確立した。その知名度を高めた1つの要因がHPの開設だった。1990年代、バブル崩壊に見舞われ、例外なく金星ゴムも煽りを受けた。そんな中、会社のワープロが壊れ、秋葉原にワープロを購入するため向かった杉本さんが店頭で見たのは一般家庭にはまだ浸透していないインターネットができるパソコンだった。「ワープロ以外に様々なことに使えるので仕事に使えそうだ」と思った杉本さんは家族の反対も押し切り、その場でパソコン購入を決意。すぐにインターネットに接続すると様々な企業がHPを開設していた。「顧客呼び込みに有効だ」と思い、必要なことを1から勉強、サイトなどを見て自分もHPを作成した。「仕事もしないで何やってるんだ」と文句言われながらも諦めず完成したページは、公開して1週間で新規の問い合わせの電話が増え、1年もするとHPからの飛び込み受注により、売り上げをバブル崩壊以前まで取り戻したのだ。以後もHPによる問い合わせで、新規営業のほとんどを賄っているという。

お客様の要望に世界一のヒントがある

ゴムの世界は奥が深い。原料ゴムに硫黄や金属酸化物を混ぜて架橋させる化学反応によって弾力のある、強いゴムができる。微妙な量の違いや素材の組み合わせ、混ぜ合わせる環境、成形の仕方などを1つ1つ試しながら新しいゴムをつくってきた。「お客様の要望があってできることが広がっていくよね」と語るように、難題な要望でも、まずはやってみるという姿勢で試行錯誤する。これまで最も印象に残った製品を尋ねると「硫黄や金属酸化物を入れないで」という要望だったという。硫黄や金属酸化物はゴムが弾性を生む大事な素材だが、これらを入れないゴムがほしいと言うお客様が現れたのだ。その会社は銅箔(銅の薄いフィルム)を作る企業で、銅箔を作るときに硫酸銅を使っており、通常のゴムでは硫酸銅と反応して、銅以外のものが製造過程の中で溶け出してしまう。硫黄以外で考えられる過酸化物を使用し、金属酸化物以外の配合薬品を何種類も試して、弾性力を持たせるための配合に辿り着いた。「世の中にないものを作り出す。それって世界一でしょ?」と杉本さんは意気揚々と話す。これまでも、これからも、杉本さんは新しいことへの挑戦を臆さずに続けていく。

 

|杉本 浩志さん プロフィール|

大学卒業後すぐ、金星ゴム工業入社。専務取締役を経て2001年代表取締役社長に就任、現在に至る。墨東ゴム工業会会長。墨田区ものづくり大賞受賞。墨田区フレッシュ夢工場認定企業。