ウイルスは怖いだけの存在? 西條 政幸
2014年,発熱と出血をう「エボラ出血熱」という病気が西アフリカで大流行し,遠く離れたアメリカやヨーロッパでも患者が発生しました。この病気は「エボラウイルス」によって発症するものですが,これはもともとコウモリの体内にあったウイルスで,人間社会に存在するものではありません。
一般的に,ウイルスの種類ごとに感染する相手の生物種「」が決まっています。ヒトの体内に入ってしまったエボラウイルスのように,宿主以外の生物に感染してしまうと,宿主のからだとウイルスとの折り合いがつかず,重い病気を引き起こしてしまうことがあります。このようなウイルス感染症は大変困った存在ですが,決まった宿主のからだの中ではそれほど強い害を及ぼすことはなく,他の個体に広まっていくものもあります。生き物にとってはそれすらも迷惑なことかもしれませんが,ウイルスを研究している国立感染症研究所の西條政幸さんは「ウイルスの中には,私たちにとってなくてはならないものもある」と言います。
それには,私たちのからだに備わっている「免疫」というしくみが関係しています。血液やリンパの中にある免疫細胞が,からだの中に侵入してきたウイルスや菌をやっつけてくれるのです。これら免疫細胞には学習能力があり,一度感染したウイルスの情報を覚え,次に侵入してきたときにより早く対応できるようになります。私たちに身近な「風邪」もウイルスが主な原因です。せきやくしゃみなどを介して周りの人にうつしてしまうことがありますが,このときウイルスも一緒に移動しています。その結果,うつした相手の免疫細胞の機能を高めて病気に強くしていると考えることもできるのです。
ウイルスは病気を引き起こす嫌な存在ですが,長い生命の歴史の中では貢献していた部分も多いのかもしれないですね。 (文・浜田 駿)
取材協力:国立感染症研究所 ウイルス第一部 部長 西條 政幸 さん