[出雲 充 ・丸 幸弘対談]悩みながらQuesitonを重ね、 自分のビジョンを掴もう

[出雲 充 ・丸 幸弘対談]悩みながらQuesitonを重ね、 自分のビジョンを掴もう

ワクワクする仕事に出会うため、仕事を「選ぶ」ことはもう古いのかもしれない。未来を描いて新しいことを実現させていく、すなわち仕事を「つくっていく」ことこそ、ワクワクしないだろうか? 世界を変えるために新しい仕事をつくり続けている2人の起業家に話を聞こう。東大発ベンチャーで初めて東証一部に上場し、世界で初めて微細藻類ユーグレナの屋外大量培養技術の確立に成功した株式会社ユーグレナの出雲充さん。藻類のバイオジェット燃料の実用化を目指し、2015年、第1回日本ベンチャー大賞にて、内閣総理大臣賞を受賞した起業家だ。株式会社リバネスの代表、丸幸弘とは古い友人。2人の起業家は、どうやってワクワクする新しい仕事をつくっていったのだろうか?

ベンチャーの立ち上げにいいね!はいらない

リバネス 丸 幸弘
僕がリバネスをスタートさせたのは、まだ自分が修士課程の学生だったとき。それまで就職活動はしていなかったけど、いろんなスタートアップに参加して半分社会人を経験していた。遺伝子検査のサービスをやろうとして失敗したりもした。その経験の中で生まれたのが科学教育の会社、リバネスだったんだよね。研究者になろうかと考えたこともある。でもやりたいことができて、それを早く実現できそうな方法が起業だった。出雲君も大学生のときにユーグレナと出会って、社会人1年目で銀行の仕事を辞めて今の会社を立ち上げたんだよね。銀行員という安定的な仕事を1年で辞めるなんて、変態扱いだったでしょ(笑)。
ユーグレナ 出雲 充さん
僕は大学生のとき、バングラデシュの栄養問題に出会って、解決策をずっと探していたんだ。その中でユーグレナが非常に栄養価が高く、貧困地でも効率的に栄養がとれることを知った。でもそれはすべて「屋外で大量培養できれば」という前提付きだった。だから、友人の鈴木(現在の株式会社ユーグレナ取締役 研究開発担当 鈴木健吾さん)に研究で追求してもらいながら、自分は銀行に入って、起業に備えてお金の動かし方を学ぼう、と考えていたんだ。
リバネス 丸 幸弘
僕らが科学教育の会社とミドリムシの会社を立ち上げたとき、みんなに「潰れるからやめなよ」って大反対されたよね。
ユーグレナ 出雲 充さん
僕が会社を立ち上げたときにはまだユーグレナの屋外大量培養ができる、という確証はなかった。自分でも起業するのはもう少し経験を積んでからだと正直思っていた。でも、そんな風にできるようになることを待っていては、自分は一生その夢を実現できないんじゃないかと思った。
リバネス 丸 幸弘
絶対儲からないよ、ビジネスモデルとして破綻しているよってたくさんの人に反対された。だけど不思議だったのは、どの人にも、「難しそうだけど楽しそうだね」って言われたことだ。
ユーグレナ 出雲 充さん
それだけはどんな立場の人でもワクワクしてくれたよね。会社を回していくのにお金は必要だからお金が集められないときは大変だったけど、ベンチャー企業って最初から国や大企業とか、誰かに応援してもらって、お金をもらえたら成功するかと言ったらそんなことはないから難しいと思う。
リバネス 丸 幸弘
僕らはみんなに反対されても自分はこれをやるんだと信じる夢があって、キラキラしていたと思う。僕らはそれをいろんな大企業の人たちに見せにいった。ビジネスとしては破綻しているけど楽しそうだねって言われた。そのうちだんだん仲間ができて、ユーグレナは10年で東証一部に上場したし、リバネスも13年間潰れずに大きくなってきている。それくらいの夢と、その経験が大事だったと今は思う。ベンチャーが大企業のロジックに合わせるのではなくて、大企業を自分たちの信じている夢にだんだん巻き込んでいくことが必要だったんだ。

誰もがワクワクするビジョンはバームクーヘンのようにできる

リバネス 丸 幸弘
僕はビジネスをするときに、そのビジネスによって何を解決するのか、自分なりのQuesitonをビジョンに変えることが大事だって良く言っているんだけど、大学生、大学院生と会うと、良くどうやってそのビジョンに行き着いたんですか?って聞かれない?
ユーグレナ 出雲 充さん
聞かれる!突然「ユーグレナが地球を救う」というような、多くの人が共感してくれるビジョンが生まれたと思われることがよくあるけどそんなことはないよね。
リバネス 丸 幸弘
僕も「科学技術の発展と地球貢献を実現する」って誰もが納得するビジョンに行き着くまでには相当昔から遡らなきゃいけない。最初は理科離れを課題にして、教育現場と社会の乖離を解決しようとしていた。だから出前教室をやり始めたんだけど、1人500円しか集められなかったんだから、ビジネスにならないよね。どうしようと思ったときに、この出前教室が実は研究者のプレゼンテーションの研修になることがわかった。今は企業のCSR活動としても成り立つことが分かった。研究者のスキルアップになるならポスドク問題の解消につながるし、企業のファンを増やしていくことは、持続的な経営につながる。そうやっていろんな価値を加えていったら、たまたま今のビジネスモデルとビジョンになったんだよね。
ユーグレナ 出雲 充さん
僕は元々国連の機関で働きたくて、バングラデシュに行ったとき、十分に発育できていない子どもたちを目の当たりにして、最初「食料がないこと」が課題だと思った。でも実はそうではなくて、「栄養のある食料を手に入れられないこと」が本当の課題なんだと気づいた。新鮮な果物や野菜が採れない地域で栄養素の高いものを届けるにはどうしたらいいか。そこにたまたま藻類の研究をしていた友人と出会い、ミドリムシは可能性があることを教えてもらった。さらに培養という課題にぶち当たって、次はどうやったら売れるかを考えて、今は、食料だけでなく、化粧品や、飼料や、燃料にもなるミドリムシのいろんな可能性を信じている。
リバネス 丸 幸弘
それは最初のQuestionをもとに出雲君がいろいろ行動して、次のQuestionを積み重ねていったから実現したんだよね。今や内閣総理大臣が認めるベンチャーですよ。
ユーグレナ 出雲 充さん
僕も丸さんもね、自分たちの会社のビジョンについて、今はみんなが納得する言葉で話せるけど、これってバームクーヘンをつくるときと一緒なんだ。生地を塗って乾かして、違うなとか思って、もう一回塗って、を繰り返している。表面が傷ついたら売り物にならないように、会社もビジョンが傷ついていたらそこから綻びができてきちゃう。でも最初は間違っていてもいいと思う。繰り返したからこそ明確になったんだよね。
リバネス 丸 幸弘
魔法使いみたいに最初からバームクーヘンを出せたわけじゃない。
ユーグレナ 出雲 充さん
今だって、本当にいいのかな、って悩むことはある。悩んでいるけど悩みながらやることが救いだと思っていて、傲慢に自分はできるって思ったらおわりな気がする。
リバネス 丸 幸弘
僕らには悩みとQuestionがあるということがラッキーだよね。悩むからこそ成長し続けられるし、それがどこにもない、唯一の仕事につながっていくのが結果的には楽しいんだ。

倒れそうになりながら掴みとることの中にワクワクはある

リバネス 丸 幸弘
今、僕は『TECH PLANTER』というプラットフォームで次のベンチャーを育てる仕組みをつくろうとしているんだけど、今話したようなことってどうやってベンチャーを育てていくかということを考える上で大事だと思うんだよね。
ユーグレナ 出雲 充さん
僕らはみんなに無理なんじゃないの、と言われながら、だんだんできることが増えていった。そんな僕たちが次のベンチャーを育てるというのはある意味矛盾しているように感じる。
リバネス 丸 幸弘
僕らは彼らにすばらしい事業計画を一緒につくってあげたり、僕らが大企業を説得して資金を調達してきたりしてはいけないんだと思う。確かに僕らが立ち上げたときは、大企業は遠かった。国も遠かったし、投資家も遠かった。その距離は近づけてあげたい。自分たちが大企業を巻き込むくらいのパッションを持った人を育てたいし、そういう中でQuestionを積み重ねていける文化を育てたい。
ユーグレナ 出雲 充さん
倒れそうになりながらも、掴み取れることの中に、自分の成長も企業の成長もあると思う
リバネス 丸 幸弘
育成系ができたからと言って、居心地の良い、ぬるい土壌をつくっちゃって「やってくれんじゃん」ってなったらダメ。Questionを積み重ねられる文化をつくったからこそ死ぬ気でワクワクする未来に向かって走って行ってもらわないと意味がないよね。
ユーグレナ 出雲 充さん
ベンチャーにかぎらず、ワクワクする仕事って一朝一夕でできることじゃないし、そんな単純なものではないよね。すごく苦しくて、怖いと感じることの中に本物だと信じられる仕事がある。
リバネス 丸 幸弘
僕はもう一度リバネスをつくれと言われたらきっと途中で潰れると思う(笑)。それくらい、ワクワクする仕事に出会うって奇跡的なことなんだと思うけど、今度は出雲君を始め、いろんな会社とそれをつくっていくことに挑戦していきたいな。

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出雲 充 さん(写真左) プロフィール

東京大学農学部修了。在学中に発展途上国のひとつであるバングラデシュを訪れ、栄養問題と出会い、衝撃を受ける。2000年、「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」を知る。2002年、東京三菱銀行(現東京三菱UFJ銀行)に入行。2005年に株式会社ユーグレナ設立。同年12月に世界で初めてユーグレナの屋外大量培養に成功する。2012年にJapan Venture Award 「経済産業大臣賞」受賞、世界経済フォーラムの「ヤンググローバルリーダー」選出、2015年経済産業省「第1回日本ベンチャー大賞」にて「内閣総理大臣賞(日本ベンチャー大賞)」受賞。

株式会社ユーグレナlogo-9

丸 幸弘(写真右) プロフィール

東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。リバネスを理工系大学生・大学院生のみで2002年に設立。日本初の民間企業による科学実験教室を開始する。中高生に最先端科学を伝える取組みとしての「出前実験教室」を中心に200以上のプロジェクトを同時進行させる。2011年、店産店消の植物工場で「グッドデザイン賞2011ビジネスソリューション部門」を受賞。2012年12月に東証マザーズに上場した株式会社ユーグレナの技術顧問や、小学生が創業したケミストリー・クエスト株式会社、孤独を解消するロボットをつくる株式会社オリィ研究所、日本初の大規模遺伝子検査ビジネスを行なう株式会社ジーンクエストなど、15社以上のベンチャーの立ち上げに携わる。