今日の睡眠が、明日の脳を決める「良い睡眠のカギは「早寝」にあり」

今日の睡眠が、明日の脳を決める「良い睡眠のカギは「早寝」にあり」

眠る事は好きですか?

すべての動物は眠ります。人は,1日のおよそ4分の1にあたる時間をつまり,人生の4分の1を眠って過ごしているのです。あたたかい布団の中でぬくぬくと過ごす幸せなとき。そんな時間をもっと大事にするために「眠り」について考えてみませんか。

ふと時計を見上げると,針は深夜12時を過ぎています。まだ宿題が終わっていないのに……眠い! もう寝て,早起きして勉強しようか,がんばって夜中にやり切ってしまおうか,悩むことはありませんか。じつは最近,からだと頭にとっていいのはどちらなのかが,脳の中を流れる「波」を調べることによってわかってきました。

情報伝達が引き起こす波

現在,睡眠の状態を知るために使われているのは「脳波」を測定する方法です。脳の中にはたくさんの神経細胞があります。その先端にはシナプスという部分があり,他の神経細胞と情報伝達を行っています。頭に測定器をつけることで,その際に生じる電気的な変化の総和を脳波として測定することができるのです。たとえば,起きている間は,周波数が高く,振幅の小さな波が生じています。これは,さまざまな部位で,脳神経が活発に情報伝達を行っていることを示しています。

脳波測定の結果,私たちが布団に入ってから朝起きるまでに,大きく2つの眠りがあることが知られています。浅い眠りと呼ばれる「ノンレム睡眠」と,深い眠り「レム睡眠」です。ノンレム睡眠時の脳波を測定すると,周波数が低く振幅の大きな波が観察されます。これは,脳の活動が1日のなかで最低の状態となり,休息をしていることを表しています。この時間には成長ホルモンが分泌され,からだにとっても休息の時間になります。

「寝て」いるのに「起きて」いる?

それでは,レム睡眠ではどのような脳波が見られるのでしょうか。測定を行うと,周波数が高く振幅の小さな波が起こっていることがわかります。じつは,これは起きているときと同じかそれ以上に,脳内の神経伝達が活発に行われていることを示しています。「深い眠り」と称されるレム睡眠の間,脳は活発に動いているのです。しかし,脳から筋への情報伝達は視床でストップしているため,からだが動くことはほとんどなく,よほど大きな音や揺さぶりがなければ覚醒することもありません。

この不思議な眠りの謎を解くため,動物を使ってレム睡眠時に何が起こっているのかを調べる実験が行われました。レム睡眠に突入した際に刺激をかけて,むりやり起こし続けた結果,ノンレム睡眠の時間が徐々に短くなり3日目には入眠後すぐにレム睡眠が見られるようになりました。レム睡眠は眠りからなくせないものだったのです。じつは,レム睡眠時には記憶に関わる海馬周辺の情報伝達が活性化していることがわかっています。レム睡眠を減らすと学習機能の低下が見られることなどからも,この時間に脳は活発に働き,覚醒中に起こった記憶の整理や記憶を深める活動を行っていると考えられています。

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良い睡眠のカギは「早寝」にあり

この2つの眠りは,眠りに落ちた直後から交互に訪れます。およそ90分でノンレム睡眠,レム睡眠と続けて起こり,これを4〜5サイクル回して朝を迎えます。興味深いことに,明け方に近づくにつれ,レム睡眠の時間が長くなります。これは,脳が活性化している時間を少しずつ増やしていくことによって起きる準備を整えているためと考えられています。これら2つの眠りが規則正しく交互にくり返されることで,脳とからだを休め,記憶の整理をし,翌日を迎えるというサイクルが成り立っているのです。

近年,脳波計の進化により,多くの人の睡眠時の脳波を測定できるようになりました。その結果,寝る時間が遅くなるにつれ,入眠後すぐに訪れるノンレム睡眠の時間が短くなり,さらにその後の2つの眠りのリズムが狂ってしまうことが明らかになりました。つまり,遅い時間に寝ると,眠りの質が悪くなるというのです。

成長を促すために必要なノンレム睡眠と,記憶の整理に結びついているといわれるレム睡眠。まったく脳の活動状況が異なるこれら2つの眠りが正確にリズムを刻むこと,これがよい眠りのポイントです。

眠りのリズムが崩れる前に,早く布団に入りましょう。明日の脳の働きを決めるのは,今夜の睡眠なのですから。