臨床試験から考える「研究」と「倫理」-千葉大学医学部附属病院 臨床試験部-

臨床試験から考える「研究」と「倫理」-千葉大学医学部附属病院 臨床試験部-

生命科学の基礎研究を医療に結びつけるかけ橋となる臨床研究。iPS細胞研究をはじめ、日本の基礎研究レベルは世界でもトップクラスだが、論文数ベースで見たときの臨床研究の数は欧米諸国に比べ圧倒的に少ない。基礎研究の成果を、国内で実用化できるようにするため、現在国をあげて臨床研究の活性化が進められている。この取り組みの中、千葉大学医学部附属病院では、臨床試験の重要性を次世代に伝える活動を継続的に行っている。臨床試験という題材を学校の中でどのように伝え、活用できるだろうか。

答えがわからないから研究する

2015年1月、千葉県立千葉中学校で7年目となる実験教室が実施された。生徒たちはまず、エコーによる体内臓器観察や代謝酵素反応実験を通して生き物の体の仕組みや個人差について学んだ。さらに、ある遺伝子のうつ病への関連をDNA鑑定実験で調べるという、答えのわからない問いに挑戦した。教室を通して、研究は誰にもわからないことを調べることだと生徒たちは実感したのではないだろうか。臨床試験も同じで、薬を飲んだ後、薬や体はどうなるのか、動物だけではなく実際に人で調べないとわからない。それは種差があるからである。だからこそ新しい治療法の開発には臨床試験が必須なのだ。

生命を対象とするときのもうひとつの視点

臨床試験は治療ではないため、被験者にとっては苦痛やリスクを伴う「負担」となる。多くの人に試せばより確かな結果が得られるが、同時に負担を負う人は増える。だからこそ試験は負担を極力小さくする視点が重要なのだ。

教室の2日目には、カフェインを、集中力を高める効果が期待される新薬と見立て、生徒たちが検査員・被験者となり実際に臨床試験を行った。45秒×3回の単純計算を9セット繰り返す試験に、生徒たちもさすがに疲れたようだ。講師の一人で、倫理研究を行う島津先生は「今回はちょっと疲れるぐらいで済むけど、臨床試験は一歩間違えると医療の発展の名のもと、被験者を犠牲にする可能性がある」と話した。さらに人類がもつ凄惨な人体実験の歴史について触れると、生徒たちは真剣に聞き入った。

臨床試験を題材に科学と倫理を考える

臨床試験体験後、データの解析についてディスカッション

臨床試験体験後、データの解析についてディスカッション

最終日、生徒たちはチームに分かれてデザインした臨床試験計画を発表し合った。注目した成分の副作用の事例まで調べるチームがあるなど、安全性や被験者の負担への考慮も見られた。講師の菅原先生は「倫理や法律との関係が深い医学部は理系で一番文系っぽい。人を人として尊重する。当たり前だが、医学では常に忘れてはならない」と教室を締めくくった。

社会の多くの課題は医学部が取り組む「生命の研究」と同じく様々な視点が必要だ。複合的な課題に取り組むひとつの題材として、学校の中でも臨床試験について考えてみてはどうだろうか。

千葉中学校 伊藤毅先生のコメント

臨床試験の実習で生徒たちは試験官と被験者の双方の体験をすることができ、さらにいろいろな先生方と直接話をすることで、実験の進め方や科学と人の幸福の関係について考える貴重な機会になりました。

生徒の声

  • 確実な結果が欲しいが被験者の負担をなるべく少なくしなければならない。臨床試験の倫理の話は本当にバランスをとるのが難しいと思った。
  • 倫理という答えの出にくいものを考えることはとても大切だと思った。

臨床試験について学べる動画や情報を掲載しています!
千葉大学医学部附属病院臨床試験部HP
http://www.chiba-crc.jp/

記者のコメント

相手を尊重すること。これは医学に限りません。人間でなくとも、動物であれ植物であれ微生物であれ、生き物の尊厳を忘れてはなりません。理系を目指す人はもちろん、全ての人に考え続けてほしいと思います。