ついに、日本のロボット革命が動きだす

ついに、日本のロボット革命が動きだす

ロボット大国日本の未来を憂う

1980年代以降、日本のロボットは自動車産業、電気電子産業において、急速に普及した。産業用ロボット分野では、世界No.1の出荷額、稼働台数を誇っているが、いま、欧米や中国をはじめとした新興国が、独自のロボット戦略をうちたて、追い上げをはかっている。米国がロボットの基礎研究に毎年数千万ドル規模の資金支援を実施していることに始まり、欧州では民間企業・研究機関共同の研究・革新プロジェクト「EU SPARC Project」を立ち上げ、EU全体として製造業、農業、保健衛生、運輸、セキュリティ、家庭分野など多岐にわたる実用ロボットの開発を推進し、中国政府は「知能製造装置産業発展計画」のなかで、産業用ロボットの国内売上を2020年までに現在の10倍にすると掲げている。ロボット大国といわれた日本に危機が忍び寄っているといわざるを得ない。

ロボットの定義が変わる社会が到来

近年、デジタル化やネットワーク技術、クラウド技術が高度化し、モノとモノとがネットワークによりつながるIoT(Internet of Things)社会の波が押し寄せている。それに伴い、ロボットのあり方も劇的に変化を遂げつつある。まず、様々なデータを自ら蓄積・活用する情報端末化のニーズが顕在化したことで、従来の量産化に長けた産業用ロボットから、自ら学習し行動する自律型ロボットへの期待が高まっている。そして、単体として個別に機能するものから、インターネットを通じて相互に結びつき連携するネットワーク型のロボットの出現だ。従来、センサ、知能・制御系、駆動系の3つを備えた機械をロボットと呼んでいたが、固有の駆動系をもたなくても、独立した知能・制御系が様々なモノにつながり、駆動させることが可能となったのだ。もはやこれまでのロボットの概念では実態を捉えきれなくなっている。個々のロボットを作り込むことに長けている日本の技術が、このパラダイムシフトにどう対応するかが鍵となる。

目指すはロボットバリアフリー

成熟期を迎えた日本は、課題先進国と表現されるように、環境汚染、少子高齢化、老朽インフラ、エネルギー資源の確保など、様々な問題を抱えている。ロボット新戦略では、人類だけでは解決困難なこれらの課題を、ロボットと共存・協同することで軽減させ、これまで以上に生活の質を高めることを目指す。人間がロボットの存在を“受け入れる”ことで、よりロボット活用の恩恵を実感できるようになり、共存を前提としたロボットバリアフリーの社会を築くことが、高度な医療や介護サービスの提供のみならず、メンテナンス、インフラ・災害対応・建築、農業、エンターテイメントなど幅広い分野において真に使えるロボットの開発をさらに加速させ、日本の新産業創出に繫がっていくというわけだ。

肝となるのは人材育成

日本が今後のロボット産業において世界をリードするための肝となるのは、やはり人材育成であろう。ロボット導入にあたり、生産工程設計やティーチングなどのシステムの構築・立ち上げ・プログラミングをこなす人材やデジタルデータの活用、人工知能開発に携わるソフト分野の人材が必要不可欠となるが、日本においてはこれらの人材の育成・活用が十分ではなく、優秀な学生が海外で就職するという知の流出事例もでてきている。さらに、ロボットシステムの企画、構築、運用を行うシステムインテグレーターも、自動車や電気電子分野にとどまり、質・量ともに不足しているのが現状だ。ロボット新戦略では、OJT育成やOB人材の活用、在職者向けの公共職業訓練などについての検討が進められ、2020年までの短期間で人材を確保する方針だ。また、研究機関や大学などの教育機関においても、IoTなどに関する分野融合的なカリキュラムの導入を新たに検討している。

ロボットの知能に追いつくための要素技術開発

2045年、コンピュータ1台の処理能力が人類全体の知能を上回るともいわれており、ロボットの思考能力は飛躍的な進化を続けるはずだ。しかし、いくらロボットの思考能力が発達したとしても、基盤技術などの要素技術が向上しなければ、ロボット全体の性能は追いつかない。また、状況に応じて、人間側からのインプットも必要となるため、開発のコンセプトとしては、「誰もが使いこなせるEasy to use」を掲げている。今後いくつかのモジュールを組み合わせて多様なニーズに応えられるモジュール型ロボットが主流となることを前提に、開発すべき技術として、人工知能、センシング・認識技術、機構・駆動(アクチュエーター)・制御技術、OS・ミドルウェア、安心安全評価・基準の5つの要素技術に焦点をあてている。注目すべきは、日本全体をロボット技術の活用を試みる実証実験フィールドとし、特区制度なども活用しながら、十分な空間の確保と、既存の制度に縛られず自由に実験を行える環境を整備するということ。産、学、官のみならず、ユーザーとメーカーまでもが一体となって実証実験に参加する日が、そう遠くない将来にやってくるのだろう。2020年までには、政府による規制改革などの多角的な政策を呼び水に民間投資の拡大を図り、1,000億円規模のロボットプロジェクトの推進を目指す。

日本のロボット産業が再び世界を凌駕する日を迎えるため、日本全体が立ち上がる時がきた。

続く>国産ドローン、空を飛ぶ