エンジニアリングが 再生医療を加速する
ニュースには事欠かない再生医療だが、実際に再生医療用の細胞を製造するラインにはまだまだ課題が山積みだ。細胞といっても、製造現場はエンジニアリングの粋を結集させた工場そのもので、この生産プロセスの確立がさらに重要性を増してくる。実はこの分野、エンジニアリングに関わる人にとっては挑戦しがいのあるフロンティアかもしれない、というお話を少しさせていただきたい。
職人の目にセンシング技術で迫る
iPS細胞の作製現場では、細胞が使用に耐えるものか、そうでないものかを判断する上で、技術員の目による判別が大きな指標になっている。こう聞くと驚かれる方もいるだろうが、職人技と呼ぶのにふさわしいローテクで現場は支えられている。人に依存するためにスループットには限界がある。職人技を自動化し、より早く、かつ的確に細胞を判別するための技術開発が現場では求められており、産学連携の取組みが進められている。例えば、株式会社ニコンと名古屋大学大学院創薬科学研究科の加藤竜司准教授らは、画像処理によって判別できる装置を開発している。これまでにiPS細胞などの幹細胞を用いた実験で、さまざまな細胞の品質や培養技術を定量化することに成功しているという。
エンジニアの知恵が細胞の培養プロセスを確立する
細胞は化合物のように合成することはできない。培養液の中で、分裂を繰り返させることで大量の細胞を作り出している。フラスコの中で放っておいているかというと、そうではなく、数十Lといったスケールの培養タンクで撹拌しながら増やすといった方法が取られている。しかも生存のために必要な酸素を供給したり、培地の温度やpHが問題ない範囲で推移しているかをセンシングしたりと、細胞は思った以上にデリケートだ。ひとつの細胞製品を作るために数百万円、数千万円という費用がかかるようでは再生医療の普及はあり得ない。いかに効率よく、価格を抑えた培養のプロセスを確立するか、ここでもエンジニアリングの知恵が求められている。
生きたままで機能する立体物を作る
再生医療が目指しているひとつに、臓器の再生がある。臓器は細胞というパーツが組み合わさって作られているが、単に細胞が並んでいるだけではない。細胞どうしが集まるための担体や、栄養を供給するための血管が走っているなど、無機物で形を作り上げるのとは異なった要素が求められる。生命科学系の研究者らは、細胞どうしがいかに自律的に立体構造をとるようにするかというアプローチからこの問題に取組んでいる。一方で、工学のバックグランドを持つ研究者からは「3Dプリンターで立体的にする」、「コラーゲンのブロックに細胞を埋めて、ブロックを組み立てるかのごとく形を作らせる」といったユニークなアプローチが提案されている。
再生医療分野には、エンジニアリングの研究者が関わることのできる領域がまだまだ存在する。読者のみなさんの参加が、この分野の可能性をさらに広げてくれるはずだ。