スマート農業の実現を担う 自律走行技術

スマート農業の実現を担う 自律走行技術

農地でタブレットを片手に現場を管理する一人の農業者が、複数の畑に分散した農業ロボットを制御し、施肥から収穫までを行う。そんなシーンが普通に見られるようになるかもしれない。本稿では、農の分野で活躍が期待されるロボットとICTを活用した新たな農業モデルを紹介する。

顕在化する農業の担い手不足と高齢化

圃場管理から栽培、収穫、出荷に至るまで、 多くの手作業を必要とする農業には、省力化のためさまざまな農機が利用される。しかし、農業者の減少や高齢化が進行し、すでに圃場を持ちながらも人手が足りないために生産を縮小せざるを得ない生産者も出始めた。長年のリスクが顕在化し、既存技術だけでは補完できないレベルに達しているといえよう。

その補完を期待されるのが、ロボットやICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産を可能にする「スマート農業」である。その筆頭が、衛星利用測位システム(GPS)を活用し、農地情報をもとに遠隔制御することで完全自動化するトラクターや田植え機、コンバインの自律走行技術だ。実現すれば作業効率は3倍以上に高まると試算されている。

開発の進む自律走行型トラクター

2014年11月、ほぼ真上から信号を受信することできるようになる準天頂衛星システムを活用し、誤差5cmの精度で自律走行型トラクターを走らせる実験が成功した。このトラクターには作物の生育を計測するセンサーも搭載され、走行データと共に情報を収集・統合し、パソコン上の地図に作物の生育状況とトラクターの走行状況を可視化することが可能だ。ロボットとICT技術が融合すれば、一度に複数のロボットの協調作業や生育情報の管理が可能となり、一人当たりの作業効率が飛躍的に向上する。さらに、農業経験が豊富な匠の技を形式知化し、効率的に新規就農者にノウハウを伝授する研究も進んでいる。匠の技がインプットされたロボットが、担い手と二人三脚で農業を行う日が近づいている。

世界に打って出る農業モデルの実現に向けて

とはいえ、ロボットやICT技術の農業への応用はまだ緒についたばかりだ。コスト面、機器・システムの導入や保守作業、ICTの利活用に関するサポート体制、セキュリティの強化、安全性の確保、データの標準化など、スマート農業の実現のために課題は山積みだ。しかし、大学の研究者、産業ロボット・IT企業、農機メーカー、生産者による新たなチャレンジは確実に進んでいる。海外を見れば、今後、特に東南アジアを中心として世界的には食の需要は大幅に高まると予想されている。現状の危機を脱して競争力のある生産ができれば、日本農業の新たな可能性が拓けるだろう。新しい技術のタネはまかれた。この苗を育て、世界に打って出る農業モデルが実現する日を見守りたい。