未来を耕すロボット 知恵を融合し高度化へ
これまで農業、林業、水産業、畜産業それぞれの生産現場に焦点をあて、実証の取り組みが進むロボット技術がもつ可能性や、発展に向けた課題について述べてきた。本稿では、それらを振り返ると共に、さらに先の未来でロボットと共にどのような第一次産業を営むことができるか、考えたい。
拡がる行動範囲とセンシングの可能性
ロボットであるがゆえの特徴のひとつは、稼動範囲が格段に広がることだ。今後ドローンのような飛行技術や、耐水・耐圧性を兼ね備えたロボットの種類が増えてくると、地面、土中、水中、空中とあらゆる空間で、いとも簡単に無人自律行動ができるようになる。これまで人間が立ち入れなかったような環境も生産現場の一部となり、生態・環境の調査、大規模もしくは細やかな液剤や粒剤の散布が可能となるのではないか。
そして各事例でとりあげられた要素技術を並べてみると、共通して登場するのが「センサー」である。農林水畜産どの場面においても、作物の生育状況をよりミクロに計測し、適した収穫時期を判断することで生産量全体や品質の向上につながると期待されている。ロボットの行動範囲が拡がれば拡がるほど、取得できるデータのパラメータも多様化し、解析を通して農学の知見がさらに蓄積されるだろう。
自然の知恵から学ぶ新たな開発
センサーに限らず、ロボットの機能開発はいまだ発展の余地が大きい。現在は、既存の農機にセンサーやGPSを搭載したものが多いが、今後のひとつの可能性として「バイオミメティクス」という考え方がある。沖合養殖を目指す海洋ロボットの事例でも触れたが、例えばロボットが魚の集団を餌付けできるようになるには、そもそも魚類の目や感覚機能について深く理解する必要がある。魚類の専門家と共に新たなセンサー機能を開発できるかもしれない。他にも、岐阜県ではアイガモの行動から学んだ田んぼの除草ロボットが開発されている。除草のために飼っていたアイガモが泳ぐ後はいつも田んぼの水が濁っていることから、濁りが水中の雑草の光合成を妨げていることに気づいたのだ。同じように考えると、例えば土中を通った後に土壌の団粒構造を形成し水はけの向上に役立っているミミズでさえ、未来のトラクターロボットとして研究の対象になるかもしれない。自然界の動植物の形状や機能から新規のロボット開発に還元できる知恵は、まだまだ沢山眠っているように思う。
人間の感覚を超えた高度な生産へ
総じて、ロボットの導入により省力化の恩恵を受けた生産現場は、経営への集中に加え、アカデミアの研究者やロボット開発者との連携による、壮大な研究開発現場ともなるだろう。これまで長年、家庭や地域での古くからの知恵として引き継がれ、維持されてきた第一次産業の技術。それらを、今号の特集で追ったような最先端の技術で学習すれば、これまで解析・判断し得なかったような生産量の向上に昇華させていくことができる。異分野の研究の知恵、産学官そして生産現場を含む異なるプレーヤーの知恵、それらが全て融合され、第一次産業はきっと高度化し発展を続けるに違いない。