日本の大粒完熟イチゴを海外へ 合同会社工農技術研究所
我が国では、農林水産物・食品の輸出額を2020年に1兆円と目標を掲げている。青果物においては、輸出額目標を250億円としてリンゴ、かんきつ類、ナシもモモなどを東南アジアやEU、中東に向けて輸出する戦略が進められている。そのような動きがある中、宇都宮大学発ベンチャーの合同会社工農技術研究所では、完熟の大粒イチゴの海外流通を可能にする技術を開発した。
大きな甘いイチゴは海外でも人気
日本産イチゴは、香港でブランドが定着しており、1パック1000円以上で販売されている。大きさは、1パック大玉6〜8粒入りのものが中玉9〜15粒入りのものよりもニーズがある。1個40g以上ある大粒イチゴは通常サイズに比べて見栄えが良い。また完熟したイチゴは酸味が少なく甘味が強い。これがイチゴ本来の味である。このような完熟の大粒イチゴは、他国産にはなく、新たな市場の展開が期待できる。しかしこれまでに市場にはほとんど出回っていない。そもそもイチゴは追熟しないため、糖度の高い状態で出荷するには、完熟に近づけて収穫する必要がある。しかし、完熟状態では表皮が柔らかく、収穫時の摘み取りや詰め作業などのちょっとした傷で品質が劣化するため、賞味期限が短い。特に大粒イチゴは、従来通りの平詰めでは自重で品質が劣化するという課題があるのだ。
消費者が食べるとき初めてイチゴに触れる
そこで工農技術研究所ではイチゴ損傷可視化システムを構築し、イチゴ収穫ロボットと連携することによって傷んでいない完熟の大粒イチゴの選別・収穫を可能とした。また流通時においては、輸送の衝撃に耐え、自重で傷つかない容器を開発する必要があった。そこで、実の部分でも硬い果底部と果柄を容器に固定することで、可食部に全く触れない容器「Freshell」を開発した。すでに香港、タイ、シンガポール、フランスへ船舶や航空機での輸出試験を行っている。結果として、最大で収穫後14日が経過したものでも、平詰めパックでは損傷や食味低下などの品質劣化が認められたのに対し、本容器を用いたものでは品質に全く問題がでなかった。今年1月には、1個60gのスカイベリーがマレーシアの高級スーパーにて、容器込で約1600円で販売され、即完売した実績もできた。
挑戦する生産者を創出したい
このような技術が開発できたのは、イチゴの非接触品質評価を研究する柏嵜勝准教授と農作業ロボットを研究する尾崎功一教授という、農学と工学の連携によるものが大きい。完熟で大粒イチゴをつくるには、日本の生産者が持つ高度な生産技術が必要不可欠である。「研究機関の技術移転を活性化し、挑戦する生産者の創出につなげたい」と柏嵜勝准教授は語る。大粒完熟イチゴがジャパンブランドとして世界に認識される未来は間近だ。