【at a Glance】ヒトCCR4の抗体医薬開発

【at a Glance】ヒトCCR4の抗体医薬開発

国内の抗体医薬開発では、中外製薬株式会社からキャッスルマン病、関節リウマチの治療薬として発売されているヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体、一般名トシリズマブ(EU販売名アクテムラ)が成功を収めている。今年になり、国内の抗体医薬開発メーカーとしては老舗である協和発酵キリン株式会社(以下、協和発酵キリン)が開発を進めてきた抗ヒトCCR4モノクローナル抗体が厚生労働省の認可申請の段階に移った。

CCR4

CCR4(C-Cケモカインレセプタータイプ4)は7回膜貫通のケモカインレセプターで、Th2細胞、CLA+皮膚向性T細胞、制御性T細胞、Th17細胞、血小板などで発現しており、レトロウイルスの一種であるHTLV-1が感染することで引き起こされる成人T細胞白血病(ATL)の白血病細胞で強く発現していることが知られている。1997年にケモカインの一種であるTARC/CCL17の受容体として、翌年にはMDC/CCL22の受容体としてマウスを使った研究で明らかにされている。CCR4とATLの関係性については、2003年に名古屋市立大学の上田龍三氏らがATLの白血病細胞においてCCR4が強く発現していることを発見し、報告している。

KW-0761 の作用機序

協和発酵キリンでは、開発コード名KW-0761として抗ヒトCCR4抗体の開発が進んだ。2004年に同社オリジナルの抗体技術であるポテリジェント技術を利用して作製したヒト化CCR4モノクローナル抗体を利用した研究成果が報告されている。ポテリジェント技術は、IgG抗体のFc領域に結合しているN型複合型糖鎖からフコースを外すことで、抗体依存性細胞傷害活性(Antibodydependentcellular cytotoxicity; ADCC活性)を高めるのだ。同論文では細胞がADCC活性に依存して細胞が溶解したことをあらわす結果が示されている。このメカニズムを利用し、ATL細胞表面に存在しているCCR4にKW-0761が結合することで、そのADCC活性でATL細胞に対して抗腫瘍効果を発揮するというのが、KW-0761の作用機序だ(図1)。

図1 ポテリジェント抗体の作用機序

(a) 低フコースIgG1抗体(ATLの場合はKW-0761)はNK 細胞のFcγ受容体IIIaとの親和性が高く、NK 細胞をターゲット細胞に集める働きをする。また、抗原特異的にNK 細胞を活性化する。これによって、ターゲット細胞に大きな傷害を与える。 (b) 高フコースIgG1抗体はFcγ受容体IIIaとの親和性が低く、効率よくNK 細胞を集めることができない。

開発の現状

KW-0761の臨床開発は2006年から2010年にかけて国内で第1相と第2 相試験が行われた。そして、2011年4月26日に厚生労働省へ国内医薬品製造販売承認の申請が行われている。あわせて、同社の子会社である協和メデックス株式会社から、個別化医療で用いられる体外診断薬として免疫組織化学的手法、フローサイトメトリーに基づく診断薬2 種の国内製造販売承認も厚生労働省に申請された。海外ではアムジェンとのライセンス契約が結ばれており、現在臨床の第1相試験の段階にある。協和発酵キリンが開発するポテリジェント技術を使った抗体医薬のパイプラインは2011年8月現在で7品ある。KW-0761は同社の技術の有効性を占う意味でも1つの試金石になるといえるだろう。今後の展開は注目に値するのではないだろうか。