【PickUp産学連携】研究者のイメージを 映像に落としこむ
学会で研究成果を発表するとき、論文の投稿や書籍へ寄稿するとき、自らの研究成果を「より良く、より的確に」伝えるため、どのような工夫をしているだろうか。効果的な方法の1つが、映像化だろう。専門の会社にサポートを受けて映像を作成するメリットは多く、研究を発展させるための新たな打ち手として注目を集めている。
視覚化がもたらす効果
「進化する研究を伝えるメディアの現状(BioGARAGE*08掲載)」にて紹介したように、近年の視覚化技術の発達はめざましい。『驚異の小宇宙 人体』(NHK)や、『Newton』(株式会社ニュートンプレス)など、一般向けコンテンツでも高度なコンピューターグラフィックス(CG)が見られるようになっており、非専門家に向けたアウトリーチ活動の一環として活用すれば、研究への敷居下げるとともに、その印象を大きく変えることができる。
例え同じ分野の研究者同士だとしても、注目している分子が違うだけで視点が異なるため、気づいてみると全く違う議論していたなんてことは意外と多い。そのため、特に目に見えないミクロな現象を扱う分野では、お互いのイメージのすり合わせが重要となってくる。同じ物を見ながら議論を進められるため、視覚化されることのメリットは計り知れない。学会など専門性の異なる研究者が集まる場をはじめ、研究現場でも全体を俯瞰できる挿絵やCG映像などが活用できれば互いの理解は一気に進み、新たなイノベーションにつながるのは言うまでもない。
共にイメージを創りあげるパートナー
映像化のメリットが大きい一方で、高額な費用を必要とし、研究者側にもある程度知識が必要であり、依頼すべき場所も分からない。結果として、なかなか手が出せない……そんなイメージを持っていないだろうか。
そんな課題に答えてくれるのが、京都大学大学院工学研究科出身でサイエンスライターとしての経験も持つ辻野貴志氏が興したサイエンス・グラフィックス株式会社だ。設立来、映像制作、論文のカバーピクチャーやプレゼン用の挿絵製作などCGを駆使したサービスで研究者を支えてきた。
研究を背景から理解し、製作サイドから見た映像化のポイントを提示できる。研究経験を持つスタッフがいることが同社の創り上げる作品クオリティーを高めることに繋がっているのだ。そのため、たとえ明確なイメージがなかったとしても、ディスカッションを続ける中で、一緒にイメージを創り上げていくこともでき、まさに研究者のパートナーといえる。リピーター率が高く、利用者からのクチコミのみで広がってきたことも、その信頼性と実力を現している。
映像制作で研究を活性化
では、実際にはどのような流れでCGアニメーションができ上がっていくのだろうか。今回は、大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻の中野貴由先生に協力いただき、研究テーマを俯瞰する映像制作の流れを追った。
製作したのは、破骨細胞(osteoclast)が骨を溶かし、骨芽細胞(osteoblast)が修復する過程と骨細胞(osteocyte)との関係、そしてコラーゲン分子とアパタイト結晶が方向性を持って再構築されていく様子だ。骨再構築は、細胞レベルでは教科書でもよく見かけるシーンだが、この分野での映像はそう多くない。また、分子レベルに至っては今まさに研究が進められているため新しい知見も多い。それらをどこまで表現できるかが課題となった。次ページにあるように、制作物を持ち寄っての段階的な打ち合わせを行うことで、これまでの研究成果をまとめた、この分野のスタンダードと成りうる映像を作成することができた。3次元で表現し、アニメーションにすることで気づく矛盾や論理の穴など、新たな研究テーマの種が見つかった点も興味深い。
最近では、大型プロジェクト申請時に審査員に的確に研究内容を伝えるためのコンテンツとして、またプロジェクト終了時に研究成果をまとめた作品としてCG制作の依頼が舞い込んでくることが増えているという。現在進めている研究成果をまとめるために、一度CGの制作を検討してみてはいかがだろうか。