Researchin’ on the Edge

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自己修復する素材は、省エネルギー、高寿命、高機能を実現する可能性を持ち、宇宙開発や医療用途など様々な分野に応用が期待されている。近年では携帯電話のケース等に実用化もされている。今回は、今後さらに多様化、発展することが予想される自己修復性素材にフォーカスしてエッジの効いた論文を紹介する。

ROE


機械的な力で物性を制御する

Force-induced activation of covalent bonds in mechanoresponsive polymeric materials.
Davis DA. et al., Nature (2009) 459, 68-72.

プラスチックやゴムに代表される高分子物質は、ナノスケールの化学結合が連続して全体を形成して、我々の目に見えるサイズの個体として存在している。このため、高分子では熱や光が起因となる低分子の反応に加えて、機械的な力も化学結合を変異・切断する原因となる。本論文ではこの過程に着目し、光異 性化により吸収波長を変えるクロミック分子を、機械的な力で異性化させ、加圧部位を可視化することに成功した。まず、クロミズムを発現するスピロピランを 共重合させることでポリマーを得た。このポリマー中では、機械的な力を受け、引き延ばされることによりスピロピランが異性化する。これにより吸収波長が変化し、異性化した部位、すなわち、圧力を受けた部位は黄色から赤色に変わる。この結果は、同様にして機能的な分子を配置することにより、様々な機能が付与 された材料が生み出される可能性を示している。

FI

引き延ばされることにより開環が起き、異性化する


超分子的相互作用力で自己修復するゴム素材

Self-healing and thermoreversible rubber from supramolecular assembly.
Cordier P. et al., Nature (2008) 451, 977-980.

高分子では多くの分子が共有結合によりお互いをつなぎ合わせているため、いったん切断されると再び結合を形成するのは困難である。そのため多くの自己修復性の素材は、外部からの光学的な刺激や、添加物質などを利用している。一方、本論文で報告された素材は、生じた切断面同士を押しつけるだけで修復が 進む。この素材は共有結合でつながった高分子ではなく、数種類の低分子化合物がお互いに水素結合でつながりあう超分子のゴムとなっている。物理的刺激に対 しても水素結合の方が切れやすいために先に断裂し、断裂されたそれぞれを押し当てると水素結合を再形成する。これにより、致命的な共有結合の亀裂を生じさせることなく、断裂、修復を繰り返すことが可能なのだ。再生可能資源や脂肪酸、尿素などから合成できるこの物質は、様々な応用が期待されている。

HB

多くの水素結合を持つ低分子が上図イメージのように超分子化する


自己修復性を持つ導電性インク

A self-healing Conductive Ink.
Odom SA. et al., Advanced Materials (2012) 14, 2509.2648.

本論文では、導電性を持つインクに自己修復性を持たせている。このインクは銀粒子と高分子、それと高分子を溶解するための溶媒から構成される。使用時には溶媒が揮発することにより高分子が固化し、銀粒子による導電性が発揮される。亀裂が生じた時には、その付近に高分子を溶解させるための溶媒を滴下す ることで、銀粒子が流動し導電性を回復した。このインクに溶剤である酢酸ヘキシルを内包した樹脂のマイクロカプセルを混合し、損傷した際にはカプセルから 溶剤が流れ出るようにした。これにより、固着していた高分子が融解し、発生した亀裂に銀粒子と共に流れ込み、導電性を回復させることができた。まだまだ制限は多いが、導電性が維持できるということは応用範囲が広く、今後の発展が期待される。

MC

亀裂部位のマイクロカプセルが割れ、銀粒子による修復が起こる