Direct Detect 〜赤外分光法による新しいタンパク質定量〜
分子生物学に携わる研究者であれば、ほとんどの人がBradford法、あるいはLowry法、BCA法によるタンパク質濃度測定を行っ たことがあるだろう。その際、スタンダード溶液を毎回調製する手間を面倒に感じることはないだろうか。メルク株式会社が開発した DirectDetectTMは、この手間を一掃する、新しいしくみによるタンパク質定量装置だ。
Direct DetectTM
赤外分光法により、スタンダード溶液の必要なくタンパク質の定量をできる。サンプルを専用カードに空けられたスポットに滴下し、装置上部のスリットに挿入してから、ノートPCのアプリケーション上で測定ボタンをクリックするだけで定量が始まる。
アミド結合をダイレクトに測定
タンパク質の濃度測定方法は、ターゲットのタンパク質の性状や溶液の性質に応じて適切に使い分ける必要があった。最も一般的な Bradford法は操作が簡便で還元剤やEDTAの影響を受けないが、界面活性剤濃度には気をつける必要がある。Lowry法は感度が高く SDSの影響を受けないが、操作に長い時間を要し、遊離アミノ酸やフェノール類、還元剤、キレート剤により妨害されてしまう。BCA法は銅イオンに BCA(ビシンコニン酸)を反応させて感度を高めており、界面活性剤には強いが還元剤やキレート剤存在下では利用できない。
これらの方法は、溶液中に存在しうる他の物質―核酸や脂質、炭化水素など―には反応せず、タンパク質のみに反応する物質を用いて比色定量を行うというのが基本的な考え方だ。それに対し、DirectDetectTMは赤外分光法によって、アミド結合が持つAmideI(C=O結合の伸縮振動)、AmideII(C-N伸縮振動、N-H変角振動)部位による1640及び1540cm-1の吸収を測定する(図1)。タンパク質中のアミド結合は、ペプチド結合およびAsn、Glnの側鎖に存在する。これらの存在量を、直接的に定量するのだ。
2μLのサンプルをそのまま利用する
DirectDetectTMでの測定は、溶媒の状態による発色試薬の反応性への影響を気にする必要がなく、界面活性剤 や還元剤、キレート剤の存在下でも問題なく測定をすることが可能となっている(図2)。そのため、例えばSDSバッファーで抽出したタンパク 質サンプルも、Bradford法を行う際のように希釈する必要がなく、わずか2μLのサンプル溶液を用いて直接測定ができる。
専用のカードに空けられた4つのスポットに、3つのサンプルと、ブランクとして溶媒を滴下する。そして装置に差し込んだ後は、1クリックする だけでスポットが乾燥され、タンパク質濃度の測定値が画面上に現れる。スタンダード溶液を調製する必要がないため、スピーディーに 測定を行うことが可能だ。また、このカードは常温で長期間保管しても、測定値が安定している。そのため、例えば長期間にわたって何度もサン プル調製を行う場合に、タンパク質抽出時にカードにスポットしておき、最後にまとめて濃度測定を行う、といったことも可能だ。
他の生体高分子測定への応用も視野に
赤外分光法によって測定する方法には、溶媒の状態に依存しないという点の他に、もうひとつ利点がある。赤外光の吸収波長はタンパク質、核酸、脂 質、炭化水素などの間で異なる。そのため、タンパク質以外の生体分子が高濃度に存在するサンプルでも、それらを区別して測定が可能だとい うことだ。図3に、実際にラット肝臓サンプルを用いて測定した吸収スペクトルを示す。結果、AmideI、AmideIIのピークから遠く離れた 位置に脂質の吸収ピークが確認された。現在はタンパク質量をその他分子が混在する中でも正確に測れる、という段階だが、メルク社では今 後、脂質や核酸量の測定についても無償のソフトウェア・アップデートにより対応をしていく予定だという。
これまでも、新たな解析技術が試薬や機器として研究室に導入されるたびに、研究者が担うルーチンワークの時間は短縮されてきた。まさにルーチンワークの代表ともいえる、実験前の生体高分子量測定の手間を減らすことで、DirectDetectTMはトータルで見た研究時間の効率化に大きな影響を与えうるだろう。
メルク株式会社
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