サイエンスカフェで 未来人材を育てたい

サイエンスカフェで 未来人材を育てたい

独立行政法人産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 研究員
藤原 すみれ さん

2005年、筑波大学大学院修了。博士(理学)。オハイオ州立大学、理化
学研究所での研究生活を経て、2010年より現職。(写真は昨年実施されたサイエンスカフェの様子)

平成22年6月、「国民との科学・技術対話の促進について」という基本方針が公示され、年間3000万円以上の公的研究費を受け取る研究者は、顔の見える双方向コミュニケーションを積極的に取り組むことを求められるようになった。その対象者の一人である産業技術総合研究所の藤原すみれさんに、アウトリーチ活動に対する取り組みと思いについて話を伺った。

「スーパー植物﹂が世界を救う」

藤原さんは、遺伝子を適切なタイミングと場所で機能させるのに必要なタンパク質群「転写因子」の研究をしている。どうやって転写因子がコントロールをしているか、その仕組みを明らかにし、人工的に転写制御する技術を確立すれば、環境変動や悪天候に左右されず安定的に生産できる「スーパー植物」が誕生するかもしれない。そんな未来を目指して、藤原さんは植物内で遺伝子の発現にブレーキをかける全般的な機構について研究中だ。この研究課題は平成23年に始まった「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に採択されており、最大の特徴の一つに、年1回以上のアウトリーチ活動が推奨されていることが挙げられる。「私にとって、オフィシャルにこうした活動をできる状況なのは嬉しいことでした」と、藤原さんは心の内を明かす。

研究者として果たすべき2つの責任

しかし、大学・大学院時代の藤原さんはアウトリーチ活動にほとんど興味がなかったという。アメリカでポスドクをしていた時も研究三昧の日々で、当時のコミュニケーションといえば、研究者同士で頻繁に行うディスカッションぐらいだった。そんな藤原さんが、初めて一般の人たちに情報発信をしたのは、帰国後に所属した理化学研究所でのこと。一般公開の研究室ツアーで、小学生から高齢の方まで幅広い年齢層に向け、研究の内容や魅力を伝えた。「とても難しかったけれど、子どもが面白がって聞いてくれたり分かってもらえたりすると、自分も嬉しかったんです」と、ほほ笑んだ。この経験をきっかけに、国民の税金を使用して研究する立場には2つの責任があると考えるようになった。1つ目は、研究課題の設定。基礎研究に取り組むうえでも、「将来社会にどのように還元できる可能性を秘めているのか?」といったように、世の中での位置づけや研究の重要性も真剣に考えて課題を設定すべきという。そして2つ目が、次世代の育成。子どもたちにサイエンスのおもしろさを伝え、未来の研究者や科学技術に興味を持つ人材を育てることだ。

最先端のアウトリーチ活動は学校の中

藤原さんは、採択された初年度には大人向けサイエンスカフェを開催し、2年目も1月に実施予定だ。少人数で行われるコミュニケーションスタイルは、参加者の反応が直接伝わり手ごたえを感じられる。意外なところで食いつかれたり、面白い質問が飛んでくるため、新しい刺激になるのだ。そんな藤原さんの次なるチャレンジは、高校生向けの出張サイエンスカフェ。高校のホームルームの時間や課外授業に自ら足を踏み入れ、一緒に語りあいたいと言う。将来何をしようかと迷っている若者にこそ、サイエンスのおもしろさを伝えたい。「地味に生きているだけに見える道端の草にも秘められた力がある。それを引き出すことができれば世界を救えるかもしれないと気付いてもらいたい。私がお話した高校生が、将来同じ研究者になってくれたら一番嬉しいですね」。最先端で活躍する研究者のアウトリーチ活動は、未来を担う人材が集まる教育現場で行われるようになるかもしれない。 (文 高橋良子)