ビッグデータの活用で ビジネスコミュニケーションを 加速せよ!

ビッグデータの活用で ビジネスコミュニケーションを 加速せよ!

富士ゼロックス株式会社 執行役員・研究技術開発本部長 大西 康昭さん

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富士ゼロックス株式会社 執行役員・研究技術開発本部長
東京大学工学部物理工学科卒業。富士ゼロックス株式会社入社後、感光体の開発に従事。米国ピッツバーグ大学でMBA 取得、ワークステーション事業部でソフトウェア開発を行い、技術企画部長、R&D 企画管理部長を経て、2010 年より現職。

複合機で業界を牽引する富士ゼロックス株式会社は人と人とをつなぐことでイノベーションが起こる環境を最適化することを使命としている。複合機から全てのデータを扱う企業へ。転換の起爆剤として、2012年9月、「リバネス研究費富士ゼロックス賞」を設立する。募集テーマは「将来的な事業化を見据えた、ビッグデータマイニングを活用した研究」。「この分野の核になる人と出会いたい」という、執行役員で研究技術開発本部長の
大西康昭さんに、この賞にかける想いを伺った。

<h3?データの効率的な活用で働きやすい環境を実現する

「Our business goal is to achieve better understanding among men through better communications.」
というフィロソフィーを掲げる同社では、ビジネスコミュニケーションにおけるプロセス改善に役立つツールやサービスの開発を行っている。
企業の中に蓄積される膨大なデータの活用はもっとも力を入れるテーマの1つだ。全体で約4万人のスタッフが働く社内でも、カスタマーサ
ポートで集積されるVOC(voice of customer)、複合機のテクニカルサポートに出向くスタッフのためのマニュアル、テクニカルレポート、特許情報など、大量のデータが日々生み出されている。自社で蓄積されるこれらの文章、画像、音声、動画などのデータを管理・検索できるよう
な仕組みを開発し、コミュニケーションの効率化を図るサービスへと発展させる。「ワーカー1人ひとりがデータをうまく活用することで働
きやすくなる環境を実現したい」と大西さんは語る。

<h3?可視化できない情報を可視化する</h3?
中でも近年注目しているのは、「非構造化情報」と言われる、検索・利活用できない情報だ。現在、企業がビジネスコミュニケーションのために用いている電子データの中で、検索可能なデータはたったの15%。残りの85%はデータベース化されていない、とされている。効率的で密度の濃いコミュニケーションを実現し、これらの情報からうかがえるノウハウの伝承や顧客の声を現場に届けることが重要だ。リバネス研究費富士ゼロックス賞設立の背景には、そのアイデア創出に研究所外からの新しいカルチャーを取り入れたい、という想いが込められている。社内
の豊富なデータを活かした共同研究なども希望があれば実現を検討したい、と考えている。

<h3?自社の組織行動で実験を繰り返す

数百名の研究員が働き、70 のプロジェクトを常時走らせている同社では、研究所内そのものが、「非構造化情報」をはじめとする膨大なデータを抽出、解析し、生み出した技術をコミュニケーションの促進に役立つように検証していくための舞台だ。たとえば、会議で個人の発話量が定量できるようなデバイスを使って、会議中の活性を客観的に測る。1人ひとりがある時点でオフィス内のどこにいるか、何をしているかをデータ化することで、コミュニケーションの取りやすいタイミングを可視化する。自分たちが開発したコミュニケーションツールを活用し、人が組織の中でどのように行動するのか、効率の良い会議の仕方は何かの検証を繰り返して、そこで得られた知見が顧客の課題解決をするサービスに活かされるのだ。

人を中心に考えることでビジネスの生産性はあがる

「機械の存在をできるだけ目立たなくして、人が生産性をあげることを目指している」と大西さんが話すように、富士ゼロックスの技術で鍵となるのは「人を中心とした発想」。
従来の発想では、人の手を煩わせることを「コスト」と考え、できるだけ機械に任せて人が関与しなくても済むサービスを考えてきた。しかし、フリーアドレス制を一部で導入し、自由にオフィス内の仕事場を決めたり、フロアのいたるところにコミュニケーションが生まれやすい小会議スペースが設けられたりしていることからもうかがえるように、どんなに高度な機械を開発したとしても、中心に据えるのは「人の行動」に寄り添うサービスであると同社は信じている。ゼロックスパロアルト研究所のマーク・ワイザー氏が提唱したユビキタスコンピュ―ティングの考え方に代表されるように、あらゆる場所で機械を意識することなく、容易に情報を扱えるようになることが
ビジネスコミュニケーションを効率化させると考えているのだ。

異なるカルチャーを取り入れたい

「Document Service & Communication」を強みとする同社は今、従来の複合機などの「コンテナ(箱)」サービスから、企画書、マニュアルなどの「コンテンツ」、さらにはそのコンテンツをどのように利用するかという「コンテキスト(文脈)」を可視化するサービスへと移行する転換期にある。変革のために必要なのが、自分たちとは異なる発想持つ人たちとの交流だ。すでに産学連携セミナーや海外の研究所との交流など、社内外の垣根を低くして、オープンイノベーションを実現しようとしている。従来の複合機やコンテンツビジネスで培ってきた、画像処理・言語処理などの技術と組み合わせ、新しい発想にチャレンジできる人材に触れ合うことが、同社のサービス
の成長を加速させると考えている。富士ゼロックス賞には、「研究は必ずしも数ではない。一流の人に出会いたいと思います。この分野で核になれる人とスタッフが一緒になって議論することで、お互いに刺激しあいたい」と大西さんは期待を寄せる。「技術が会社をつくる」と考える同社とともに、人と人とのコミュ
ニケーションを促進させるための新しいチャレンジをしたい人の応募を待っている。
(文 環野真理子)