ロート製薬株式会社 第10 回リバネス研究費 ヘルスケア部門賞 採択者座談会

ロート製薬株式会社 第10 回リバネス研究費 ヘルスケア部門賞 採択者座談会

恒松 雄太 さん (右):
名古屋大学を経て京都大学大学院薬学研究科博士後期課程修了(博士(薬科学))。2011年4月より静岡県立大学で研究を行う。医薬シードとなり得る生物活性天然物の効率的発見にはゲノム情報や遺伝子工学の技術が必要であると捉え、天然物の生合成研究に分野を変更。採択テーマ「遺伝子工学を活用した革新的天然物化学による新規生物活性化合物の創製」

中沢 威人 さん(中央):
東京工業大学大学院生命理工学研究科博士後期課程修了(博士(理学))。岡山大学を経て2011年4月より静岡県立大学に移動するにあたってキ
ノコの遺伝学分野から天然物の生合成系の研究に分野を変更。採択テーマ「菌類分子遺伝学を基盤とした、糸状菌からの新規二次代謝
産物の網羅的獲得」

本間陽一さん (左):
ロート製薬株式会社研究開発本部 副本部長岡山大学工学部卒業後、1992年にロート製薬株式会社入社。
入社以来、研究開発にて検査薬の開発、眼科領域ならびに皮膚科領域の研究に従事してきた。

第10回リバネス研究費では初めての試みとして「ヘルスケア部門賞」と称する、スポンサーの名前を出さないかたちでの研究費が設置された。この賞を設置したのが、ロート製薬株式会社である。その目的やその後の展開について、同社研究開発本部 副本部長の本間陽一さんと、採択者である静岡県立大学薬学部の同じ研究室に所属する恒松雄太さん、中沢威人さんに語っていただいた。

ヘルスケア部門賞に込めた思い

本間 この度はおめでとうございます。
中沢 恒松 採択をしていただいてありがとうございました。
恒松 実は面接のご連絡をいただいた際に、ロート製薬さんがスポンサーと聞いて、とても驚きました。失礼ながら目薬の企業さんというイメージがあったので、どうしてこんなテーマを募集したのか不思議に思いました。
本間 名前を「ロート賞」にしなかった理由は、実はそこにあるんです。我々は目薬と胃薬、最近は化粧品を主事業としています。でもこれからは食品や漢方など、様々な分野にチャレンジしていこうとしています。すると、いろんな分野の人材に入社してもらう必要があります。でもいま採用活動をすると化粧品に興味があるという人が入社を希望することが多く、多様性が生まれません。そこで、研究費というかたちで様々な分野の研究者とネットワークを広げよう思いました。「ヘルスケア部門賞」とすることで、イメージに囚われずに申請してもらおうと考えたのです。
中沢 正直申し上げますと、もし「ロート賞」だったら申請をしていなかったと思います。それくらい目薬や化粧品の会社というイメージが強く、菌類の遺伝子を基盤とした自分の研究とはあまり接点がない、という認識でした。
恒松 私も、微生物の化合物生産を研究しているので、得られた天然物の応用分野としてもちろん化粧品も考えられますが、「ロート賞」であ
れば化粧品に活かせないといけないのではないかと考えて、申請はしていなかったと思います。
本間 「ヘルスケア部門賞」だからこそお二人は申請してくださったのですね。リバネス研究費を通じてお二人とつながることができたのですから、今回の狙いは成功ですね。

他分野に飛び込む力

中沢 同じテーマで同じ研究室から2名の採択が出ることは珍しいと思いますが、採択に至った理由を教えていただけますか?
本間 天然物をやっている人は、合成的な知識と生物的な知識を両方もっているところが多いので、そういったラボと知り合いたいと思っていました。お二人とも30歳に満たない年齢で、複数の大学や研究室を経ていますよね。もちろん、今回申請いただいた他の方の中にもいらっしゃいましたが、その中でもお二人は大学だけでなく分野も変えて進んで来られていたのです。自分でやりたいと思うことができる環境を、自分自身で切り拓いて成果を出してきたということが評価につながりました。
恒松 私は指導教官にも恵まれて、自分で物事を決めるという勝負を大学院時代からさせてもらいました。ここで成果を出さなければ次がないという状況に身をおくことで、学んだことが非常に多かったと思います。博士課程時代に指導教官が企業と共同で菌スクリーニングをやっていて、いろいろと学ぶことが多かったので、これから共同研究先を自分で作ろうと決意をしていました。
中沢 学生時代の東工大の研究室では、いくつかの企業にOBがいて、研究費を寄付で回してくれたことはありましたが、共同研究ではなかったです。生化学、遺伝学の基礎研究だったので、企業と交流するような研究内容ではありませんでした。薬学にきたらいろんな企業のつながりがあって、これからどんな知の交換が行われるか楽しみです。
本間 ロート製薬でも、研究員の研究領域を3年くらいで敢えて変えるということをしています。領域が変わったとしても、それ以前に身につけた力が全く役に立たないということはまずありません。むしろ、そこで新しいことを学ぶことでそれまでとは違う視点が生まれ、ユニークな能力になるのです。お二人はそれに近い環境に自らを置いていました。そのような若手研究者と太いネットワークを築きたかったのです。私たちもお二人との交流を楽しみにしております。

新しさを志し、チャレンジを続ける

本間 この研究費を皮切りに、研究員研究交流や共同研究などへも発展できればいいと思っています。お二人の希望や抱負を聞かせていただけますか?
恒松 分野を変えた瞬間はとても大変で、人から遅れを取ると感じてしまいますが、地道に研究を進めることでいろんな視点が得られたと思います。このペースで研究にチャレンジしていきたいです。そのために今回の研究費を有効に使わせていただきます。
また、大学にいると企業の人とは普段接することがありませんし、接する人も限られてしまいます。企業は大学の研究室よりも人の出入りが多いでしょうし、技術や知識、ノウハウが蓄積されているというのが魅力です。いろいろな情報を持っている方と交流して、共同研究に発展できるといいですね。
中沢 私が常に意識しているのは「新しいことをやる」ということです。今回採択されたことで、自分の発想が認められて嬉しく思います。私はアカデミアにいるうちは、応用のことを意識しなくてもいいと思っています。良い成果がでれば、それは誰かの目に留まると思うからです。これがスタートだと思いますので、今回のテーマをきっかけとして、新しい分野に進んでいきたいと思います。
本間 ありがとうございます。実は最初はお二人にロート製薬に入社してほしいと思っていました。でも話している間に今の志を持ち続けて、純粋にアカデミアの研究で上を目指してほしいと思うようになりました。日本の研究が世界から遅れを取らないよう、若いお二人にも世界と勝負をしていってほしいと思います。

(取材・構成 塚田周平)