ミッドカインに魅せられて

ミッドカインに魅せられて

株式会社セルシグナルズ

細胞間の情報伝達に関わるタンパク質、サイトカイン。その一つ、ミッドカインの持つ可能性に魅せられた研究者が、株式会社セルシグナルズに集まり、がんをはじめとした難治性疾患の診断・治療に挑戦する。

運命の一枚の写真から始まった

「私の人生最後のサイエンスを懸けてこの事業をやります」株式会社セルシグナルズの代表取締役・佐久間貞俊氏は意気込む。事業の核となるサイトカイン・ミッドカインに出会ったのは、前職である明治乳業細胞工学センターの所長だったとき。「基礎研究で見つけた素材を育てて医薬品を作る」ために、よい素材を探し出すために大学を回っていた。 きっかけは、学術論文に掲載されていた、たった一枚の写真。「ミッドカイン添加後一週間」と記されたその写真には、本来、アポトーシス( 細胞死) が原因で育ちにくい神経細胞が、きれいに神経突起を伸ばして写っていた。 この物質にアポトーシスを抑える働きがあると睨んだ佐久間氏は、創薬素材としての価値を直感し、発見者である村松喬氏( 名古屋大学名誉教授・愛知学院大学教授) と門松健治氏( 名古屋大学教授) のもとへ走った。ミッドカインは、1989年に発見された塩基性の低分子量タンパク質で、細胞から分泌され、細胞間の情報伝達に関わるサイトカインの一つである。物質の可能性を信じて、数千万円以上の投資をして共同研究を開始した。
しかし、研究は思うように進まず、開発に何年もかかる創薬研究に対して、最終的に会社の選んだ方針は事業からの撤退。行き場を失ったミッドカインの特許や精製試料のすべてが中に浮いた。これが、佐久間氏が一歩踏み出すきっかけとなったのだ。「この仕事を最後まで絶対にやりたい」。人の役に立つ薬を創りたいという想いを胸に、村松氏らとともに名古屋大学発ベンチャー企業を立ち上げた。

特許を持つ強み

細胞保護、炎症促進、アポトーシス抑制作用などの機能を活用し、がんやリウマチ、心不全や脳梗塞など、多くの難治性疾患治療への応用がミッドカインには期待される。それだけでなく、初期がんにおいて強く発現する性質を利用して、同社では高い確率でがんを検出できる可能性を持つ研究用試薬「キャンスクリーン」を開発、平成18年より販売している。 「自社が見出したオリジナル素材を持つ製薬会社ほど強いものはない」。企業体としての強みについて、佐久間氏は即座にこう答える。同社にとってのミッドカインの魅力は、40件近くの用途特許を持つ点にもある。新薬を創りだす過程では、特定物質の効能・効果に対する用途特許や製造方法に対する製造特許などを抑えなければ販売できない。創薬候補としての可能性を探索する中で、一つの素材に対して様々な特許を抑えていくことは将来の強みとなる。現在、日本の大手製薬企業が開発する新薬の多くは、海外から用途特許はじめとしたアライアンスを一つ一つ結び、創薬候補化合物を導入している。包括的な特許を取得することは大変難しい。ミッドカインの医薬品候補化合物としての潜在価値は投資家も魅了する。

様々なバックグラウンドの人材が集う

ベンチャー企業が順調にその理念を遂行するためには、大学・企業の研究者だけでなく、大手企業の知財部、投資会社など、様々なバックグラウンドを持つ人材が必要だ。同社には、多なバックグラウンドを持つ優秀な人材がミッドカインの将来性に惹かれて入社してくる。そして、自らの特徴を生かし、社内での居場所を作り上げ、会社を大きくしていくのだという。 大手企業の「安定性」はないが、日々の「発見」と「変化」、そして可能性がそこにある。もちろん創薬ベンチャーとして活動する以上、経営的なリスクは大きい。天秤の上にはミッドカインがもたらす可能性とそのリスク。リスクを負ってでも、ともに戦ってくれる勇士こそが、発展の要となる。