1人1つ以上の研究テーマ

1人1つ以上の研究テーマ

株式会社ニッピ/バイオマトリックス研究所 プロテインエンジニアリング室 山本 卓司さん

2003年に1兆円を超えた健康食品市場。徐々に縮小傾向といわれているが、そのなかで前年比20%程度の成長を続けている素材が、コラーゲンである。コラーゲン業界でトップシェアを誇る株式会社ニッピのバイオマトリックス研究所に受け継がれてきた文化の中、ユニークな人材と新たな事業が生み出されている。

1人1つ以上の研究テーマ

 「この研究所には博士、修士、学士の区別はありません」。バイオマトリックス研究所に籍を置く山本さんは、研究現場についてそう語った。やりたいことを持って明確な実験計画を立案できれば、そのテーマに取り組むことができるのだという。「1人が1つ以上の独自のテーマを持つ文化は、創業当時から脈々と受け継がれています」。
株式会社ニッピの前身は、1907年に設立された日本皮革株式会社である。皮のなめし業およびなめし皮の販売から事業が始まった。現在もREGAL等の革靴メーカーに品質の高い皮革を提供しているので、お世話になっている人も多いに違いない。そのなかで、皮の裏の真皮層から得られる組織からゼラチンとコラーゲンの事業が始まった。現在の同社を支えるこの事業は、研究所での研究成果を基に構築された事業だという。また、現在研究所で行われている研究のテーマは、同社が展開している皮革事業、ゼラチン事業、コラーゲン事業および化粧品事業と密接にリンクしているわけではなく、事業部からは基本的に独立した立場を保っている。「製品のバリエーションやサービスの開発は各事業部の開発部門が行います。本研究所の役割は、各事業部との連携を図りながらも、今展開している事業に並ぶ新規事業を生み出すことです」。

研究から販売まで、事業化に取り組む研究員

 「一般的に、企業の基礎研究所は売上を上げる機能を持たず、コストセンターといわれている。しかし、同社は2001年から研究所にプロテインエンジニアリング室(PE室)を立ち上げた。細胞の立体培養時の足場となる研究用ゼラチンなどを主な製品とし、研究所が直接売上を立てる窓口となっている。「研究所が製品を販売する一番の意味は、マーケティングを行えることにあります」。研究員にはマーケティングの視点が抜けがちであるといわれている。そこで、実際に製品を販売することによって顧客と研究員との接点が生まれ、両者のコミュニケーションの中から新たなニーズを掘り起こすことを狙っているのだ。「PE室が事業部に成長する。それが理想的な展開です。私が担当しているBSE検査キットは入社時から基礎研究、開発を担当しました。今はユーザーのところに出向く技術営業もしています」。今でこそ研究から販売までを担う山本さんだが、入社当時は販売まで行うとは想像もしていなかったという。「研究員志望で入社しましたから。でも今のスタイルは私自身にはとてもマッチしています。ユーザーとの接点で直接的に意見を取り入れることで、次の事業シーズにつながるアイデアも生まれるのです」。大学と企業は、存在目的が異なる。企業で研究するならば、研究以外にもマーケティングや販売にも積極的な意識を持つことで、大きな事業に広がる研究につながっていく。株式会社ニッピのPE室が研究者の新たな道を切り開く。