多様な場で活躍する農学系博士を育てる
東京農工大学アグロイノベーション 高度人材養成センター
近年、世間で注目されている環境問題、食料問題、医療問題。農学はこれらすべての根幹をなす学問であり、高度な専門性を身に付けた農学系博士が世の中で活躍することが強く嘱望されている。専門性と21世紀の諸問題に対峙できる「力」を兼ね備えたイノベーション人材を育てる取り組みがスタートした。
多様な場で活躍する農学系博士を育てる
長期に渡り大学という限られた環境で過ごしてきた博士人材に対して、いきなり実社会での活躍を求めることは難しい。しかし、きっかけさえあれば、コミュニケーション能力、リーダーシップなど、必要な能力は飛躍的に向上するはずだ。そこで、複数の国立大学の農学系研究科が連携している「全国連合農学研究科」および農学に関連する分野で研究している他大学の博士人材を対象に、最強の農学系博士を養成しようというのが、東京農工大学が行っている「アグロイノベーション研究高度人材養成事業」の取り組みだ。ここでは、選ばれた学生がインターンシップやワークショップを通して、新産業創出や政策提言などができるアグロイノベーション人材へと育っていく。
異分野交流は博士人材のニーズ
事業のスタートとなる平成20年度は、対象となる博士課程の学生にポスドクを加えた1000人を超える対象者から20人の候補者を選びし、1期生の育成が行われた。全国から集まった参加者は「食糧自給率を50%にあげるには?」といった、まさに日本が直面している問題解決に向けたワークショップに取り組んだ。そして、博士号取得後にポスドク、大企業での研究や起業家など様々なキャリアを歩んでいる人を招いての講演会に参加した。農学分野は極めて幅広く、植物栽培学や遺伝子工学、コンクリート工学といった、普段研究生活では会うことのできないメンバーと交流を繰り返す中で(写真)、チームワークを強化し、能動的に学ぶ姿勢を示した。そして、農水省から招いた講師とともに、極めて興味深く独自性の高い政策提言を数多くまとめ上げることに成功した。
さらなる成長に向けて
今後は「実践プログラム」として3か月から最長で1年間に渡るインターンシップがスタートする。各種製造業に加え、マスコミ、商社、証券会社など、これまで農学系研究科を修了した博士号取得者がほとんど就職しなかった機関も対象だ。また、海外の機関への派遣も行われる。産業界での経験を通して、さらなる視野の広さと新たなネットワークを手に入れた農学系博士がどこまで大きくなって帰ってくるのか、期待は高まる。