海外の一流の人たちとの交流から 行動力の芽が生まれる

海外の一流の人たちとの交流から 行動力の芽が生まれる

首都大学東京理工学研究科都市環境科学研究科(分子応用化学域) 海外インターンシップ入門

サンフランシスコに行ってみたい。海外の大学を訪ねてみたい。就職活動前に自分を見つめ直したい。エレベーターの壁に貼り出されたインターンシップ参加募集のチラシを見て学生たちが応募した理由は様々だ。そして渡米後の彼らを待ち構えていたのは、自らの行動力が最大限に求められるチャレンジだった。

サンフランシスコを舞台に繰り広げられる交流の数々

読者の多くは大学で研究を進めながら、海外でのキャリアを漠然とでも選択肢のひとつと考えたことがあるのではないだろうか。「首都大学東京海外インターンシップ入門」はそんな学生たちの意識をはっきりと海外に向ける機会をつくってきた。今年で3年目の本プログラムは、理工系大学院生を対象に、毎年アメリカ・サンフランシスコで行われる。2010年11月7日から14日まで、6泊8日で行われた今年度のプログラムには、理工学研究科・都市環境科学研究科の修士1年生10名が参加した。訪問先は日系、アメリカの企業4社と大学2校。8日間で交流した現地の人材は優に20名を超える。このプログラムの魅力は、日本では決して会うことのできない人たちとの交流である。では、この8日間、参加者はその交流を通して何を体験したのだろうか。

考えて、行動して、自分を見つめ直し続ける

このプログラムは、観光旅行ではない。自分を鍛える研修である。例えば、カルビーアメリカの訪問にあたっては、「カルビーの新製品を提案する」という事前課題が渡米2週間前に課された。参加者はグループに分かれ、ディスカッションを重ねて発表資料を作成した。アメリカの消費者に向けた、カルビーのコンセプトに合う商品は何か、その商品の効果的なマーケティング方法は何か。研究で鍛えた論理的思考、情報収集力をフル活用して新商品の提案に挑んだ。審査員は、社長を含む現地の社員の方々。全力でぶつかるしかない。発表の前日は夜遅くまで最終打ち合わせをした。
カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学では、事前に訪問したい教授と英文メールで連絡を取り合っていた。訪問前日の深夜、なかなか返事が返ってこない教授へ、最後のメールを送信する学生の姿もあった。研究室訪問当日は、用意したパワーポイントを使い、英語で研究のディスカッションに挑んだ。1日の終わりには、今日、自分は何を気づいたのか、何を考えたのか、ひとりひとり自分の考えを発表した。考えを共有することで学びが深まっていく。こうした研修の日々が彼らを「行動できる人」へと変えていった。

インターンシップ入門は、ただの「始まり」にしか過ぎない

感動、驚き、戸惑い、発見・・・アメリカの大学や企業で自分の道を切り開いてきた人たちとの交流を終えた最終日の振り返りでは、参加者がそれぞれ学んだことを発表した。「海外で働く、勉強をする、住むということに対して、憧れではなく、選択のひとつとして感じることができた」「アメリカで会った日本人はみな、目的意識を持っていた」「いろいろな人と会って、少し自分の道が見えた気がする」。彼らの目は、アメリカに来る前よりも大きく輝いていた。この企画はあくまでも海外インターンシップ「入門」。学んだことをきっかけに、行動を変えていくことが重要だ。帰国後に実際に行動を起こし始めた学生もいる。第1回目の参加者、柴籐亮介君(理工学研究科 博士後期課程1年)はこのプログラムへの参加がきっかけで、「人との出会い」が自らの成長につながることに気づいた。そして帰国後、2009年に理工系大学院生のネットワークを促進する「異分野交流会」を発足した。2月に行われた第4回目の交流会では東京大学、お茶の水女子大学などの都内の大学から70人近い大学院生が集まり、研究発表をした。大事なのは第一歩を自分で踏み出すこと。自ら行動を起こせば、必ず何かが変わるはずだ。(文 前田 里美)

参加して僕たちは変わった~参加者の次の一歩~

弓林 司(ゆみばやし つかさ)理工学研究科 物理学専攻

研究者志望の私が参加した動機は、アメリカの大学と研究者を目で見て、今後の活動方針を見定めようというものでした。この1週間のキーワードを一言で言うと、「出会い」でした。企業の方、研究者の方、プログラム参加者など、このプログラムを通じて、日常生活では経験できないたくさんの出会いがありました。UCバークレーでは自ら連絡をとって数学者の小林昭七先生に会う機会を得ました。対談自体は楽しむことができたものの、正直実のある話をすることができませんでした。それは自分の研究の立場を固められていなかった、つまり伝えるべきことを明確に持ち合わせてなかったからだと感じました。そこで、スタンフォード大学では自分の研究のアイデアを伝えることに努めました。その結果、そのアイデアに近い論文を書いている研究者の方を紹介していただくことができました。この1週間で感じたのは自分の立ち位置が決まっていないと、受身の活動しかできない、逆に自分の立ち位置が決まってくれば、自ずと行動は決まって、それぞれの機会を大切に扱うことができるということです。これは当り前のことですが、実際には難しいことです。参加者としてこの経験を糧に、誰にも負けない知識を持った研究者になりたいと思います。

高垣 英幸(たかがき ひでゆき)理工学研究科 物理学専攻

私は経営者に対し漠然とした憧れを持っていました。「海外インターンシップ入門」はアメリカのビジネスを学ぶ絶好の機会であると感じ、迷わず応募しました。能力は経験に比例しますが、経験を問わず、自身の能力やアイデアが世の中に影響を与えることができる能力がある人が信頼されるのです。帰国後、学生である今でも自分が世の中に影響を与えることができることは何かと考えました。そして、現在モバイル端末向けのアプリケーションの開発を数名の仲間と行っています。海外インターンシップ入門に参加し、大学院生活において研究以外のことで、自分の能力を試したいという気持ちが一層強まったと思います。私にとって最も印象に残っている経験はカルビーアメリカで安永社長がビジネス経験のない私たち学生の商品提案のプレゼンを聞いてくださったことです。日本では、どの業界でも経験のない人間は経験を積むための下積みの仕事を任され、徐々に一人前の仕事を任されていくのが普通です。そのため、企業の役員に商品開発の企画を提案すること自体なかなかできません。ビジネスにおける「経験」がビジネスマンとしての評価と信頼に直結するのです。一方でアメリカは、誰にでもビジネスチャンスがある環境でした。当然、能力は経験に比例しますが、経験を問わず、自身の能力やアイデアが世の中に影響を与えることができる能力がある人が信頼されるのです。
帰国後、学生である今でも自分が世の中に影響を与えることができることは何かと考えました。そして、現在モバイル端末向けのアプリケーションの開発を数名の仲間と行っています。海外インターンシップ入門に参加し、大学院生活において研究以外のことで、自分の能力を試したいという気持ちが一層強まったと思います。