社会でリーダーシップを 発揮するために、今できること

社会でリーダーシップを 発揮するために、今できること

株式会社グローバックス 代表取締役社長 後藤 大介さん(右)

株式会社リバネス 代表取締役CEO 丸 幸弘(左)

子どもたちに実験教室を通して最先端の科学を伝える株式会社リバネスを立ち上げたのは、丸幸弘さんが大学院生のとき。そして、後藤大介さんは32歳でロボット開発・ロボット教室を手掛ける株式会社グローバックスを設立した。若くして会社を立ち上げた2人から、21世紀に求められる人材像を探る。

「実現したい想い」が出会いにつながる

―丸さんが後藤さんと出会ったのは、グローバックスが立ち上がったばかりの頃。社員の人材育成について議論し、意気投合した。

丸 僕も一般の人たちにとってブラックボックスになっている最先端のロボットに対する認識を高める必要があると思っていたんです。そんなときに、ロ ボット教育でボトムアップを図る事業を立ち上げた後藤さんに出会うことができました。でも、産業用ロボットをつくる会社で経営にも関わっていた後藤さんが なぜロボット教育をビジネスにしようと思ったのですか?

後藤 もともと、エンジニアとして、子どもたちのものづくりに対する関心の低さに危機感を抱いていました。また、経営者としては、社員に主体的に仕 事をしてもらうにはどうしたらいいだろう、と試行錯誤していたんです。そこで、社員が何かを生み出せる環境をつくるために、新しい企画を立ち上げようとい う考えに至りました。だから、教育をビジネスにしたかったというよりも、社員のモチベーションを上げ、主体性を生み出す方法を模索した結果、ロボット教育 の企画をつくることにしたのです。本気でやるならビジネスにした方がモチベーションも責任感も増すだろうと思ったので、新しく会社を立ち上げました。

―20世紀は製造業が中心の社会。組織が効率よく動くための仕組みがあり、コミュニケーション能力やマネジメントが重視されてきた。しかし、今は違うと2人は言う。

丸  どんどん社会が変化していく中で、みな、新しい発想とそれを実行していく主体性を求めています。それは大企業でもベンチャーでも同じですよね。特に、ベ ンチャー企業では社員ひとりひとりがいかに主体性を持って動けるかが大事になります。少ないマンパワーで新しいことをやっていくのですから。後藤さんは 「人材育成」に着目した結果、新しいチャレンジの場を社員の人たちに提供することにしたんですね。

後藤 最近はイメージがわかないから、説明を聞かないと動けないっていう人が多いと思うんです。例えば、戦場で司令官の説明がないとイメージがわか ないから動けません、という人は撃たれて死んでしまいますよね。新しい環境でも自分で考えて動くことが大事だと思います。イメージがわかないからやらな いっていうのはもったいない。むしろ、イメージがわかないことを楽しめる人になってほしいですね。

「発想力」と「主体性」を育てるために

―コミュニケーション力などは訓練すれば身につくが発想力と主体性はどうやって鍛えるのだろうか。

後藤 グローバックスではグループ会社に出向してもらったり、中国にある事業所に行ってもらったり、エンジニアにも店頭に立ってもらったりしています。人材を流動させることや違う環境に連れていくことが発想力を育み、主体的に動ける人材を育てるきっかけになっています。

丸 自分で考えて実行する力のある人は、いずれイノベーションを起こし、会社の柱となる事業を育ててくれるはずです。リバネスでは、「やりたい」という想い、夢を持つことこそ発想力や主体性につながると信じています。だから、リバネスには「やりたいことがある」人しか集まっていません。彼らの大半は、学生のときからインターンシップを通して新しい発想や自分の想いが大事にされる空間で動いてきました。そこでは会社の仕事を経験するというより、自分なりの発想を持ち込み、主体的に動き、結果を出す、と言うことを重視しています。「想いを形にする」というトレーニングを積むのです。リバネスではそのために今でもインターンシップの場を学生に提供しています。

後藤 最近、ロボベースにも大学生が集まってくるようになったので、インターンシップを受け入れるようになりました。僕も想いがある人とはどんどん一緒にやりたいなって思っていますから、そういう人は大歓迎ですね。丸 去年もインターン生だけで、これまでにない新しいイベント企画をつくりあげました。若い人が「これをやってみたい!」と入ってくれば社員の刺激にもなりますね。後藤 若い人は情熱さえあればいろんなハードルをクリアしてくれるし、スピードも速いですよね。だから私は社員に対しても、「やりたい!」という意見を否定しません。新しく事業を立ち上げたり、会社を起こしてもいい、と思っています。チャレンジ精神を大事にしたいんです。もちろん、大丈夫かなって心配になる人もいますが、まずはやってみないとわからないですから応援しますね。

丸 僕も後藤さんも、まさにそうやってやりたいことを実現できるように動いているだけですよね。想いを実現するために率先して動き、人を巻き込んでいく。その結果「リーダー」として認められたのだと思います。僕たちはお金に余裕があるから社員にやりたいことをやらせるわけじゃない。余裕がないからこそ、できるかどうか考えるより、できるように前に進むしかないんです。だからひとりひとりの「やりたい」という想いにかけるんでしょうね。

想いが合わさって、新しい価値が生まれる

―丸さんは自社の実験教室のみでなく多くの企業と「教育応援企業」としてプランディングし、企業独自の実験教室を企画する新しいビジネスモデルを立ち上げた。

丸 僕が他の企業と仕事をするときに考えることは、2つだけです。ひとつは、我々と関わることで「相手が利益を得られること」。もうひとつは、その仕事によって「社会が豊かになること」です。シンプルでしょ?社内でも社外でも、ビジョンに共感できた人と一緒に仕事をするんです。

後藤 私も丸さんに非常に影響を受けたひとりですね。私自身は、不況でロボット産業が低迷している今だからこそ、新しいことにチャレンジしようと思いました。社会にとって、私が立ち上げた事業が何らかの刺激になれば、と思ったんです。そんなとき出会ったのが同じ想いで子どもたちの教育に携わり、しかも自分たちよりももっと速いスピードで展開をしているリバネスでした。だから社員やインターンシップ生の人材育成の仕組みを参考にさせてもらって、刺激を受けていますね。

丸 僕は後藤さんに共感できたから、リバネスが持っているノウハウを全部伝えたいと思いました。後藤さんなら、日本のロボット教育は変えられるはずだと感じたんです。これからは別の企業同士でも、「競争」ではなく、ビジョンを共有したもの同士が「協調」していくことが大事だと思います。「一緒に仕事をする相手」と「社会」が豊かになることを徹底して考えた結果、新しいビジネスが生まれるのです。ビジネスって想いと想いを合わせていく場所なんですよ。そうして初めて、社会に新しい価値を持ちこみ、リーダーシップを発揮できるのではないでしょうか。

後藤 会社を立ち上げたときは私ひとりでしたが、今は想いの強い仲間が集まって、課題としてきた「主体性」を発揮できる環境が揃いつつある。今は教室運営や企画づくりにおいて、少しずつ社員の自主的なアイデアが生まれてきています。これからもっとみんなを巻き込んで、新しいことを生み出せる仲間を増やしたいですね。うちから会社をつくってみたい、という人が出てきたら大歓迎ですよ。リーダーとなって社会に新しい価値を提供する、そんな人材を自分の会社から生み出していきたいです。 (文 環野 真理子)