最高の乗り心地を、サスペンションからあなたに。須田 義大

最高の乗り心地を、サスペンションからあなたに。須田 義大

車はタイヤを回して地面を蹴けることで進んでいますが、困ったことに地面は平らではありません。地面の凹凸は、車に揺れや衝撃を与え、タイヤの蹴る力を奪ってしまいます。これらの問題を解決し、最高によい乗り心地を実現して くれるのが「サスペンション」です。

地面、タイヤ、車体の間で揺れています

自動車のそばにしゃがみこんで、タイヤの内側をのぞき込んでみましょう。
ばねの中に筒を通した姿をしているサスペンションが、ひとつずつついています。
ばねのクッションで衝撃を受け止めて、突起に乗り上げたときは跳ね上がらないように、くぼみを通るときには、そのくぼみに合わ せてタイヤを地面に押しつけます。
同時に、その余韻でびよんびよんと伸び縮みをくり返すばねの振動を、内側にある筒状の「ダンパー」が抑える ことで車体の揺れを和らげてくれます。

揺れない想いの前には、現実の壁

一般的なダンパーの中には油が満たされており、その粘性の高さを利用してばねから伝わった振動を収めます。
それに対して、あらゆる揺れを止めるべく開発された「アクティブサスペンショ ン」のダンパーは、自転車の空気入れのように動 く棒が出ていて、ばねが動こうとする方向と逆向 きに棒を伸び縮みさせることで、揺れを相殺しよ うとします。
どんな揺れでも効率よくカットでき るため、車に組み込めばその乗り心地は「まるで 異次元だ」と言われるほど。
しかし、そんな車が 広まることはありませんでした。
揺れを打ち消す ためには棒を常に動かしていなければならず、燃費があまりにも悪かったのです。

自ら切り拓く進化の道

サスペンションが機能するとき,セルフパワードアク ティブサスは同時に自家発電もする。

サスペンションが機能するとき,セルフパワードアク ティブサスは同時に自家発電もする。

「それなら衝撃や揺れを利用して、自分でエネルギーをつくればいいんです」と話すのは、東京大学の須田義大さん。
せっかく「動き」があるのなら、それを使わない手はありません。
「筒の中にボールねじと呼ばれる直線の動きを回転に変える部品と、発電と棒を動かす役を兼かねられるモーターを組み込めばいい」。
自動車が突起に乗り上げると、タイヤによってボールねじが上方向へ押し上げられて中にある棒が回転し、その力でモーターを回して発電するのです。

走りながら自家発電し、溜めた電力で動く「セルフパワード」アクティブサスペンション。
「じつは、技術的にはほぼ完成しています」!?まるで異次元の乗り心地があなたに届くその日は、もう近くまで来ています。
(文・児玉智志)

取材協力:東京大学生産技術研究所教授須田義大さん