第一三共が仕掛ける世界初のイノベーション創出スタイル「OiDE1」プロジェクト〜
世界の創薬に新たな風を吹き込む日本の基礎研究を見いだし、研究者とタッグを組んで実用化を目指す取組みが第一三共株式会社で始まった。「日本オリジナルの創薬技術で、世界の患者へ薬を届けたい」。担当する同社の佐野毅氏と金澤佳人氏は研究者からの応募に大きな期待を寄せる。
アカデミアに期待を寄せるオープンイノベーションの始動
第一三共がアカデミアの研究者と連携する公募型の創薬プロジェクト「TaNeDS」を始めたのが、2011年。「従来通りの医学部や薬学部にとどまらず、理学部や工学部など、これまでにつながりの薄かった分野との接点を増やすことで、今までにない創薬シーズや革新的な技術と巡り会えたと実感しています。タネはたくさんあり、社内でアカデミアのポテンシャルへの期待が高まっています」と金澤氏は語る。社内の空気が変わりつつある中、今回新たに始まる創薬シーズ・技術育成プロジェクトが「OiDE」だ。研究段階にあるこれまでにない創薬シーズ・技術を育てるTaNeDSに対し、将来の創薬基盤技術として実用化を目指せる研究テーマを革新的技術にまで育て上げることを狙う。
対象とする研究は新しい疾患治療メカニズムや核酸、次世代抗体、ペプチド、DDS、再生医療・細胞治療、稀少疾患など。採択された有望な研究に対してOiDEファンドが1億円程度(最大2億円)を出資してベンチャー企業を設立し、第一三共が全面的な研究支援を行う。プロジェクト終了時に成功要件を満たせば株式または知的財産の買い取りも行い、その後の新薬を目指した研究・開発を継続する。バイオベンチャーの死の谷を克服するための新たなオープンイノベーションの形だ。
二兎追う者が二兎を得る
「採択された研究者は経営ではなく、ぜひサイエンスに集中してほしい」と佐野氏の言葉に経営面の特徴が表れる。経営はOiDEファンドの運営会社である三菱UFJキャピタルが、創薬技術のブラッシュアップは創薬研究の経験豊富な第一三共の研究員が支援する。経営の舵取りと研究員確保の心配から開放されるため、採択者は技術シーズをビジネスにつなげる研究戦略の舵取りに集中できる。注力する研究室の研究プロジェクトが新たにひとつ加わる感覚に近い。基礎研究の研究者にとっては、アカデミアの研究も進めながら、企業チームと手を携えて開発も確実に進めることができ、成功報酬もあり、一粒でいくつものおいしさがある。
OiDEプロジェクトは、従来の薬という概念だけに縛られない基礎研究からのアプローチを求めている。「研究者の持つシーズの可能性を我々も一緒に考え、引き出したいですね」。この言葉が端的にOiDEの本質を表している。