幹細胞研究を縁の下から支える、リプロセルの挑戦
株式会社リプロセル 代表取締役社長
横山 周史(よこやま ちかふみ)氏
2013年6月、株式会社リプロセルはジャスダック上場を果たした。上場3日目まで初値がつかないという人気ぶりで、株式マーケットにおけるバイオ業界への注目度の高さが伺えた。いや、バイオというよりも同社が推進する“再生医療”への期待度の高さなのかもしれない。同社の名前は、2007年、ヒトiPS細胞の発明を世に知らしめた山中教授らによる歴史的論文のExperimental Proceduresにおいて確認することができる。幹細胞研究に欠かせない培地等の試薬や、iPS細胞由来の細胞製品を提供するリプロセル社の横山社長に幹細胞と再生医療の未来について聞いた。
幹細胞研究とともに歩む
同社の設立は2003年に遡る。中辻憲夫教授 京都大学物質細胞統合システム拠点長らが日本で初めてES細胞を樹立したのと時を同じくして、再生医療の実現を目指して同社は立ち上がった。まずは中辻教授らによって開発された幹細胞培養用の培地等の試薬販売から事業を開始。上記のように山中教授等によってiPS細胞の研究にも用いられたこともあり、日本国内では圧倒的なシェアを持つに至った。現在では再生医療製品に求められる、感染症リスク低減のための動物由来成分を含まない培地や、幹細胞を用いた各種アッセイ用の試薬なども販売を開始している。
また、中辻教授との共同開発によって心筋細胞、神経細胞へ、大阪大学の水口教授と共同で肝臓細胞への分化誘導技術が確立された。「この3種類の細胞は製薬企業でのニーズが高いのです」。リプロセル社の研究室で細胞の初期化から分化誘導までを行い、ロットごとに品質を確かめた後に細胞製品として販売をしている。このように、リプロセルは日本における幹細胞研究の歴史に寄り添いながら発展してきた会社なのだ。
黒子が支える再生医療の舞台
「iPS細胞由来の細胞製品は、今のところ主に安全性評価や医薬品の効果を評価するために使われています」。同社のiPS細胞を購入するユーザーの多くは製薬企業である。そして、再生医療製品の研究用途というよりも、基礎研究の初期、物質探索の段階で用いているユーザーが多いのだという。一方で2013年11月、再生医療の実現を強力に後押しする法律が閣議決定を経て国会に提出された。再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下、再生医療法)および薬事法等の一部を改正する法律(以下、改正薬事法)である。
再生医療法と改正薬事法により、日本は世界で最も再生医療を開発・実施しやすい国になったともいわれる。まず再生医療に用いる細胞の製造は、従来は医療機関が中心となっていたが、今後は、企業が積極的に行うことができるようになった。さらには細胞など均質でない再生医療製品でも有効性の推定を受け、また安全性の確認がされることで、条件および期限付きで承認を受けることができることなど、再生医療を取り巻く状況は実現に向け加速度を増すことになるだろう。そんな状況の中、横山社長は冷静だ。「再生医療を実現するためにはもちろん細胞も大切ですが、培地も大切です」。同社試薬の強みは妥協のない品質管理だ。多くのメーカーは菌や異物が入っていないかを調べる簡易検査だけだが、同社は生産単位ごとに実際に細胞が培養できるかまで検査しているという。土台が固められてこそ、その上で行われる研究開発が花開くのだ。
道無き道を進む
株式公開後も同社の動きは活発だ。2014年1月8日にはメリルリンチ日本証券を引受先とする新株予約権を発行し約100億円の調達を予定している。資金の半分を使って海外展開の基盤を整えるという。「日本よりもアメリカの方がマーケットは大きい。リプロセルの試薬を世界に広げることで再生医療の実現を成し遂げたい」と横山社長は語る。
なお、iPS細胞由来の各種細胞製品にも自信を見せる。試薬よりも細胞製品の品質を一定に保つことは容易ではないことは想像に易い。相手は細胞、ちょっとした手技の違いによっても大きいロット差が生まれ得るのだ。同社はその差をわずかにできる製造上のノウハウが蓄積し、それをビジネス上の強みに変えている。「顧客のニーズに合わせて細胞製品を充実させていきますよ。分化細胞の種類も増やしていくし、大元の細胞のドナーも増やして行く予定です」。製造技術の向上、品質の統一、製造の自動化など、同社が今後立ち向かう開発内容は先行者のいない道無き道だ。しかし日本の再生医療を支えてきたという矜持を持ってその道を進む覚悟だ。
1月28日には新生銀行とともに10億円規模のファンドを立ち上げると発表した。再生医療を牽引してきた同社が、再生医療製品の開発を行うベンチャーに対して資金面でもサポートを行うのだ。日本の再生医療プロデューサーとしての同社の活躍に期待だ。