出張BioGARAGE ライフサイエンスの研究機器事情『EngGARAGE*04』
この2 回、生体材料や微生物が持つ分子メカニズムについて紹介してきましたが、今回は少しテイストを 変えて日本のライフサイエンスの研究機器・試薬事情について紹介しましょう。
海外製品で占められる ライフサイエンスの計測機器
電子顕微鏡、蛍光X 線分析装置などの表面 分析装置の国内市場では、日本企業が健闘を みせており、シェアの50% 以上を誇る。一方、 ライフサイエンス機器となると、顕微鏡を除き、 海外勢にほとんどのシェアを握られています。 GE ヘルスケア、ライフテクノロジーズ、バイ オ・ラッド、サーモフィッシャー・サイエンティ フィック、アジレントテクノロジーズ、パーキン・ エルマー。中には名前を聞いたことのある企業 もあるのではないでしょうか。DNA やタンパク 質など、ライフサイエンスですぐに思いつくキー ワードを解析するための装置のほとんどがこう した海外の企業で占められているのが現状です。
技術に活かされる日本の研究
海外企業が席巻する日本のライフサイエンス 研究ですが、実はアイデア部分、製品化では日 本が先行していた事例が少なくありません。ラ イフサイエンス分野では有名な機器に、DNA 配列分析装置があります。2003 年に完了が発 表されたヒトゲノム計画では、シーケンサーと 呼ばれる自動でDNA 配列を解析する装置が多 いに活躍し、これなくしては実現しなかったと いえるでしょう。DNA の構成要素である4 種 の塩基、アデニン、チミン、グアニン、シトシ ンをそれぞれ異なる蛍光色素で標識し、その蛍光を読み取ることでDNA 配列を明らかにする 装置の大元は1980 年代に日本で作られました。 当時東京大学に在籍した和田昭允教授が旗ふり 役となり、日本のものづくり技術とライフサイ エンスの粋を結して研究開発が進められたので す。そして、埼玉大学の伏見譲教授によって米 国に2 年先駆けて4 色蛍光法が確立され、さら に日立製作所の神原秀記氏によって、現在主流 となっている蛍光検出方法が確立されました。 日本が先鞭をつけたDNA 配列解析ですが、そ の後の展開で米国のアプライドバイオシステム ズ(ライフテクノロジーズを経て、現・サーモ フィッシャー・サイエンティフィック)などが 先行し、結局日本は世界市場を席巻するチャン スを逸してしまいます。ちなみに、アプライド のシーケンサーの中身は日立製作所が製造して いるというのは皮肉な話です。その他にも日本 の技術が活かされている海外製品はあります が、その技術をぜひ日本の企業で装置の形にし ていきたいですね。
高橋宏之 (たかはし ひろゆき)
リバネス研究戦略開発事業 部部長。同知識創業研究セ ンターセンター長。専門は 分子生物学および生化学。 博士(理学)。バイオに限 らず最新の研究動向や技術 をウォッチして研究者と企 業をつないでいます。研究 者とコラボして民間に導出 できる次の技術をインキュ ベーション中。