お客様と相談しながら、プラスチック 65 年

お客様と相談しながら、プラスチック 65 年

関東合成工業株式会社 代表取締役社長 犬飼 功一 さん

試験管もシャーレも、研究現場で欠かせない道具は多くが プラスチックに変わってきた。この業界で特に高い製品精度 と滅菌技術を求められる医療用シャーレを製造しているのが 関東合成工業株式会社だ。65 年間金型と成形の一貫製造を 行ってきた老舗を守るのは若き 3 代目。1 業種 1 社のお客様 に真心を込めて製品を作る誠実誠造の言葉を胸に、お客様と 真正面から向かう代表取締役社長の犬飼功一さんを訪ねた。

金型から成形、組み立てまで一貫製造

関東合成工業株式会社はプラスチック 製造の黎明期から現在に至るまで続く会 社だ。同社の強みは金型から成形までの 一貫製造。この業界では通常、金型を作 る会社と成形をする会社は別のことが多 い。しかし実際には両方を同じ社内で扱 うほうが、効率が良いと犬飼さんは言 う。「一般的には金型屋は、自社にとっ て作りやすい、無駄のない金型を作るん ですね。ところが金型屋が作りやすい金 型は成形屋にとっては成形しづらい金型 になることが多いんです」。たとえばプ ラスチックのシャーレを作る場合、金型 の会社はシャーレが机に密着するように シャーレの底が水平になる金型を作る。 しかし、成形で金型に樹脂を流し込んで シャーレを作る際には、流し込んだ樹脂 に追いやられた空気を逃がす穴を開けな ければ、樹脂がうまく金型に入らないの だ。そこで成形の会社はシャーレの底に あたる金型部分に逃げ穴を開けるよう要 望する。一方で樹脂が逃げる穴を開ける と、そこに余分な樹脂が溜まるため、底 の水平を取ることが難しくなる。金型と 成形を同じ社内で行うことができれば、 このようなやりとりの手間を省略するこ とができる。プラスチックの製造には欠 かせない 2 つの工程を一貫して行うこと で、スピード感を持ってより良い製品を 作ることができるのだ。

手間より品質

今、同社で一番の生産量を誇るのは医 療用のシャーレだ。医療に使う製品を作 る際には、滅菌技術が欠かせない。同社 のもう1つの特徴はここにある。他社で も 設 置 が 少 な い EOG(ethylene oxide gas:エチレンオキサイドガス)滅菌設 備を茨城に備えているのだ。この方法で は大きな釜に製品を入れ、ガスを通過さ せることで滅菌をする。製品にガンマ線 を照射し滅菌するガンマ滅菌、紫外線を 製品に照射する紫外線滅菌などに比べる と、EOG 滅菌は時間がかかる上、扱い には注意が必要だ。大量生産が基本のプ ラスチック製造の現場において、長い滅 菌時間を必要とする EOG 滅菌は、選択 する理由がないように思える。しかし同 社が EOG 滅菌をするのは、ガンマ線や 紫外線では変質、変色し劣化している可 能性があるからだという。直射日光が当 たったプラスチック製品が、黄ばんだ経 験はないだろうか。プラスチックの変質 を起こさず、清潔に長く使える製品を生 む EOG 滅菌技術の採用は、手間はかか るが誠実な製造を目
指す同社の指針が表れている。

1人1人への提言こそが私たちの仕事研

 究者ならば、日々使っている実験器具について「ここがこうだったら」という欲求を抱く機会が少なからずあるだろう。しかし、自分の理想とする実験器具を誰に相談すべきか。そもそも、その様な相談が許されるのかわからないのでは ないだろうか。それを犬飼さんは「町工 場に相談してもらって大丈夫です。」と いう。町工場と研究者の二人三脚の最初 の一歩は漠然としているイメージを絵に するところからでも始められる。「もち ろんその絵を元に、ただ作れ、と言われ れば作ることもできます」。しかし、た だ言われるままに作成するだけでは双方 にメリットがないという。「たとえば頂 いた絵の中で、私たちから見て不要な穴 があったとします。穴がなければコスト が下がりますよ、この穴は研究に本当に 必要ですか。そういった提言を会話の中 で行えます。このやり取りこそが私たち の仕事だと考えています」。プラスチッ ク製造に長い歴史とノウハウを持ち、1 人のお客様に全力で応える「1 業種 1 社」 を掲げる同社だからこそ、研究者のニー ズを拾い、かつプロの視点やアイデアを 盛り込むことができるのである。( 文 南場敬志)

|犬飼 功一さん プロフィール| 大学卒業後、商社に就職し 3 年間勤め、退 職。その後、税理士を目指し勉学に励むが 平成 11 年に同社に入社。平成 20 年に先 代の父が亡くなり代表取締役社長に就任、 現在に至る。平成 19 年に品質保証の国際 規格 ISO9001 を取得、平成 23 年に会社創 立 65 周年を迎えた。