再生医療で患者を救う ~法律改正により本格化する再生医療実用化に向けて~

再生医療で患者を救う ~法律改正により本格化する再生医療実用化に向けて~

 再生医療の実用化に向けたフラッグシップともいえるフォーラムが、去る9月28日(日)に実施された。日本再生医療学会が主催、再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)と読売新聞が共催となるフォーラムでは、iPS細胞を含む再生医療研究のフロントランナーが一同に会し、実用化までの道のりを各々の立場から語られ、会場は熱気に包まれた。

再生医療実用化の狼煙

有楽町駅前の東京国際フォーラムには実に1200名弱の聴講者が集まった。一般向けのフォーラムにおいてこの集客力は、再生医療への期待の大きさを物語っている。最初に登壇した岡野光夫氏(日本再生医療学会理事長・東京女子医科大学特任教授)は、細胞シート工学の第一人者として再生医療研究の先端を走ってきた経験を踏まえ、再生医療の普及期に法制度整備が重要となる、と語った。安倍晋三内閣総理大臣からもビデオメッセージが届き、国家としても大きな予算を付けて実用化を支援していくことを強調した。また、石井みどり氏(自民党、参議院議員)からは、普及に向けてコストの問題など数多くの課題解決が必要である旨に言及し、研究界を叱咤激励した。

安全性という第一関門

次に山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)所長・教授)が登壇した。CiRAが応用を念頭に置いた研究所であることを強調し、同月初旬に行われた世界初のiPS細胞を使った臨床研究の後、その経過を見守る気持ちを「眠れない日を過ごしている」と表現して世界初の臨床試験の重さを語った。同氏が率いるグループは2006年に世界で初めてマウスiPS細胞を発表し、2007年に世界で初めてiPS細胞のがん化リスクについて発表した。iPS細胞の可能性とリスクを最も理解しているのは自分たちであるとし、その上で細胞の初期化の際にがん遺伝子であるmyc遺伝子を使わない手法、さらにウイルスベクターではなくエピソーマルベクターを用いる手法などを開発し、がん化リスクを無くす研究が進められていることを語った。更に同氏は、世界初の臨床研究において移植する細胞の品質評価に携わり、徹底的な調査を行った上で手術に踏み切ったことを語り、万が一の事故が起こるリスクを取るのが自分ではなく患者さんであることを最も心配している様子であった。その後、安全性の評価はこれからが本番であることを強調して壇上を去ったが、会場中が、iPS細胞の生みの親として山中氏が抱えている責任と覚悟の重さをひしひしと感じた時間となった。

世界初への挑戦

1903年、ライト兄弟は初めての有人飛行に成功した。その日のうちに4回飛行し、4回目は260mのフライトに成功した。髙橋政代氏(理化学研究所プロジェクトリーダー)は、iPS細胞研究をライト兄弟の飛行機の開発に例えて語り始めた。臨床研究の対象疾患は、高齢者の失明要因のひとつである加齢黄斑変性症である。色素上皮細胞の老化が原因で、黄斑部に裏側から血管が入り込み、重篤な視力低下が起こる。近年開発された抗VEGF抗体薬により血管新生を抑えることで、早期治療であれば視力保持も期待できるが、新生血管が小さくなってもまた生えてくるリスク、瘢痕組織が残るなど課題も多い。そこで、色素上皮細胞の移植により視力回復の可能性があるとされる。
品質の良い細胞は、経験豊富なテクニカルスタッフによって選定されたあという。その後、CiRAにて細胞の品質評価が行われ、問題がないとされた細胞を移植。経過は1年後に報告をすると決めているとのことで全く公開されなかったが、山中氏が眠れないと語ったことを受けて、同氏は手術終了後によく眠れていると語って会場を沸かせた。万事を尽くしたからこその自信の表れであろうと、心強さを感じる一幕であった。

製品化に向けた課題

それ以外にも軟骨、心臓、脊髄損傷治療、パーキンソン病、血液疾患に対するアプローチが紹介された。特に心臓に関しては、家田真樹氏(慶應義塾大学特任講師)による心筋直接誘導による心臓再生、清水達也氏(東京女子医科大学教授)による心臓臓器形成アプローチ、澤芳樹氏(大阪大学教授)の細胞シート移植と、3つのアプローチが披露され、心臓病への再生医療の期待の高さを物語ることとなった。
産業化に向けた取り組みと銘打つパートにおいては戸田雄三氏(FIRM代表理事・会長)が登壇した。産業界の役割は高品質で、早く、安く再生医療を実現することとし、FIRMとしては再生医療を安全・安定的に提供できる社会体制の構築することを念頭に、新たな再生医療社会へのコンセンサス形成、再生医療事業開発と産業化のシナリオに基づく課題の整理を行っていくことが語られた。
会場にはセルシードやJ-TECなどの再生医療企業も自
社技術を紹介するブースを出すなど、実用化の担い手である企業も一丸となって再生医療に取り組んでいる様子も垣間見えた。本フォーラムは再生医療の実用化が一気に加速していく契機となったに違いない。