キラキラした目の子どもたちをもっと増やしたい

キラキラした目の子どもたちをもっと増やしたい

花里 美紗穂  博士(理学)

絵本を使って科学を伝えたい

小さい頃から身近な現象や生き物をテーマに絵本をつくって、自分の考えや想いを表現することが好きな子でした。特に体の中のしくみに興味があり、それぞれの組織や細胞が持つ機能を「会話している」と例えて想像することがおもしろかったんです。絵本に文理の壁を超えて科学を伝えられる可能性があると感じたのは、免疫の研究に没頭した大学院時代です。免疫の文献を絵本にして文系の友達に渡したときに、とても興味を持ってくれたことがきっかけでした。更に、所属していた研究所の一般公開で自分の研究を絵本やイラストを使って説明したら、さっきまで数字を使う教科が嫌い、と言っていた子どもたちの目が変わり、伝えることをどんどん吸収していきました。このとき、研究者として研究を全うする以外にも、自分たちが当たり前だと思っている日常の現象が巧妙なしくみによって成り立っていることを伝えたいと強く思いました。

インターンと研究の両立

リバネスに出会ったのはその頃です。研究室に配布されていた『incu・be』で知り、インターンシップに参加することに決めました。インターンでは、主に実験教室と科学雑誌『someone』の執筆を経験させてもらいました。当時は博士後期課程2年でとても忙しい時期だったこともあり、毎週日曜の活動でも研究との両立はとても大変でした。自分の力が仕事に追いつけなくて、苦しい場面を何度も経験しましたね。それでも、自分の研究の良さを改めて実感できたり、自分の研究に対して今までとは異なる見方ができるようになったりと、研究にも良いフィードバックがあり、辛さが自分の成長に繋がる実感がありました。そして、博士課程を卒業する頃には日常に溶け込みながら子供たちが科学に興味を持つきっかけをつくる仕事をしたいと考えたのです。

試行錯誤で開発したキット

入社を決める前のチャレンジで、私は絵本を使った小学生向けの実験キットを新しく開発しました。実験キットでは、風媒花や虫媒花の種子散布のメカニズムについて、どんなかたちをしていれば、種が遠くまで飛ぶのか、模型を使って体験することができます。実験ができる種の模型と絵本をセットにし、読み終わったときに自分でも調べてみようという気持ちになるしかけをつくりました。教材として初めてつくってみて、研究者として『絵本で科学を伝える』という手法の課題がたくさん見つかった経験になりました。一方で、親子で一緒に学べたり、何も知らない状態でも興味を持って勉強しやすくなる効果を持っている、という絵本の可能性をより強く確信することができました。こうした発見を積み重ね、絵本を使った科学の新しい伝え方を見つけ、キラキラした目をする子どもたちをもっと増やしていきたいです。そのために、教育のことも、ビジネスのことも、これからもたくさん学びたいと思います。

(文:中島翔太)

花里 美紗穂(はなざと みさほ) プロフィール

横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科修了。博士(理学)。
もともと体に備わっている自分を外敵から守るしくみに大変興味を持ち、免疫の世界にのめりこむ。特に腸における免疫のしくみが好き。
体の中でおきている反応をイメージするのが癖である。