デブリ回収事業を目指すASTROSCALEと、 町工場をつなぐ強い絆 岡田 光信
ASTROSCALEは、衛星の軌道上サービスによりスペースデブリを除去することをミッションとした世界初の企業である。しかし、スペースデブリ除去はまだビジネスになっていない。事業化、技術開発の双方のハードルをどのように乗り越えていくのか。
事業化を通じた夢
デブリ事業の課題として「いつかぶつかるかもしれないゴミを除去する」ために誰がお金を払うのか、というものがある。では国がやればいいのか、というと国主導でも進めづらい事情があった。ゴミを片付ける技術と、他の衛星を破壊する、あるいは撃ち落とす技術は直結している。どこかの国がゴミ掃除の実験として他国の衛星を撃ち落とす技術を得ることも考えられる。しかも現状では、これを取り締まる法律もないということだ。こんなに先の読めない状況にもかかわらずビジネス化を目指して開発をすすめるという、創業者の岡田さんの信念がある。デブリ回収は、ゆくゆくは誰かがやらなくてはいけない。この事業が端緒となって、次々と民間企業が宇宙開発に携われるようになる。そして人々にとって宇宙がより身近になるよう、宇宙環境への関心を高めようと活動している。
大型デブリを墜落させる
彼らは2017年末までに、スペースデブリを除去するシステムのデモを行うことを目標としている。2万個以上とも言われているスペースデブリの中でも、まずは軌道環境に影響を及ぼしやすい大きなデブリにターゲットを絞っている。マザーシップという衛星でデブリに接近したのち、BOYという子機を衛星から射出、目標物に接着する。BOYによりスペースデブリの軌道を変え、大気圏に落下させる。大気圏に落下したBOYとデブリは大気摩擦により焼却処理されるという算段だ。
選ばれた“研究開発型”の町工場
それでは実際に衛星の開発をどう進めるのか。ASTROSCALEには資本提携するほど密接な関係を結んだ町工場があった。それが由紀精密だ。由紀精密は、精密部品の製造技術で旅客機や医療機器の部品製造を手がける老舗の町工場。近年その技術を応用し、大学の作る小型衛星の研究開発を手がけるようになっていた。宇宙に持っていける品質を、コストを抑えて作ることができる、機械設計の視点から提案できることが強みだ。
社名に込められた願い
ASTROSCALEという社名には、宇宙規模でビジネスを展開していく———そんな想いが込められている。同社の挑戦はさまざまなハードルを超えて広がっていくだろう。(城戸 彩乃)