研究と教育が融合した新たな研究ユニットを創出する Education Based Research

研究と教育が融合した新たな研究ユニットを創出する Education Based Research

大学や企業の研究者が持つ実験系を、高校生でも実施可能なかたちにまで落とし込んで研究指導を行う。その動きに全国の高校生を巻き込むことで、大規模な有 用微生物のスクリーニングや特定の形質を持つ微生物ライブラリの構築、あるいは全国各所に散らばった生物の分子系統解析を行う。教育と研究とを融合し、現 在の研究推進と将来の研究者育成とを同時に行うのが、Education Based Research(EBR)だ。

 

RBE

Education Based Research のイメージ
大学や企業の研究者がコアの実験系を作り、高校生に指導を行う。
その後、各高校で研究を行い、データと考察を研究者に戻す。

 

 

早期化する「はじめての研究」

ここ数年、多くの学会で高校生ポスターセッションが設けられ、若く優秀な生徒が発表を行う姿を目にするようになった。以前は研究を開始するのは学部 4年の卒業研究から、というのが普通だった。しかし、平成24年度から施行され始めた新学習指導要領では、物理・化学・生物・地学とは独立した教科として 「理科課題研究」が設置された。
これは「科学に関する課題を設定し、観察、実験などを通して研究を行い、科学的に探究する能力と態度を育てるとともに、創造性の基礎を培う」ことを目標と し、自然の事物・現象や環境、先端科学に関する研究を行うことを定めたものだ。学校によって実際に研究活動を行うケースもあれば、調べ学習で済ませるケー スもあると予想されるが、いずれにせよ早期のうちから研究に触れさせるというのが我が国の新たな教育方針となっている。

リバネスでは、以前より高校生が行う研究活動の支援を行ってきた。その中で、まだ専門的な高等教育を受けていない高校生であっても、研究の考え方と実験技術、そして情報の探し方を教えれば、柔軟な発想で仮説を構築し、モチベーション高く研究を進める姿を見てきている。
例えば公文国際学園高等部の生物部では全国に分布するフナムシの16S rDNA配列を用いて系統解析を行い、日本水産学会や国立遺伝学研究所のシンポジウムで発表を行った。また、岐阜県立加茂高等学校では広島から国内に侵入 したとされるアルゼンチンアリについて、学校周辺と広島、神戸、名古屋、東京などでサンプリングを行い、その系統と移動経路に関して考察を行い日本生態学 会で発表した。

EBRの枠組みでは、そんな若き研究者の力を集結し、大規模なサンプル採取やデータの取得、多数の視点からの考察を進めることで、研究の推進を図 る。それと同時に、参加する高校生にとっては、結果がわからない本物の研究に参加し、成果を生み出すことができるチャンスとなる。このワクワク感こそが、 次世代の研究者を育てるのだ。

 

第一弾:微生物ハンティングプロジェクト

EBRでは、離れた場所で、高校生たちが独立に研究を進めるため、確固たる実験系の構築が何よりも重要となる。また、現在一般的な高校には分光光度 計や蛍光顕微鏡など、分析に利用できるような機器はないことを考えると、結果は分析機器がなくてもわかるものでなくてはならない。
それを踏まえ、第一弾のプロジェクトとして走らせようと計画しているのが、微生物ハンティングだ。寒天プレート状の選択培地を調製し、環境中からサンプリ ングした土壌や水の希釈液を撒く。増殖してきた、目的の形質を持つ微生物コロニーをピックアップし、16S rDNAの一部をPCRで増幅してシークエンスを行う。得られた配列から、Ribosomal Database Project等のデータベースを用いて微生物の同定を行う。こうして形質と微生物種との関係を幅広く探索することができるのだ。

過去にリバネスでは、神奈川県の高校で生分解性プラスチック分解菌の探索を行ったことがある。筑波大学の中島敏明氏と開発したスクリーニング用プ レートを用いたこの時の実験では、なんとカマキリの体表から数多くの分解菌が発見された。おそらく、きちんとした教育を受けた研究者のほとんどは、試して みようとも思わないだろう。常識にとらわれない発想が、時におもしろい発見につながりうるのだ。

 

研究と教育にWin-Winの関係を築く

研究者が実験系を構築し、それをもって高校生が実験を行う。その中で、自らのアイデアを追加して新たなスクリーニング系や定量評価法の考案、効率的 な培養法の探索などを高校生自身が始める。課題を発見し、仮説と実験方法を構築して検証するという、まさに研究の流れを、教育界の中に生み出していくこと がEBRの目的のひとつだ。一方で研究者の側では、目的の形質を担う新規遺伝子資源を探索するとともに、最近特に強く求められるようになってきたアウト リーチ活動(国民との対話)を同時に果たすこともできる。

ひとつの実験系を核として、研究者と高校生とを結びつけ、新しい研究の形を生み出す。それによって、現在の研究を推進するとともに、将来の研究者を 育てる。このEBRのしくみを日本、そして世界へと広め、科学技術の発展に資することが、リバネスの次の10年のチャレンジとなる。

 

Education Based Research に協力していただける研究者、募集!
環境中からの微生物スクリーニングや広範な地域に渡る生物の分子系統解析など、高校生の手を借りることで促進できる研究テーマを持つ方、またオリジナルの活用方法アイデアを思いついた研究者の方々は、ぜひご参加ください!
お問い合わせは TEL 03-6277-8041 / E-mail [email protected]