インタビュー:株式会社ユーグレナ 鈴木 健吾 さん
株式会社ユーグレナ 取締役研究開発部長 鈴木 健吾 さん
profile
2003 年 東京大学 農学部生物システム工学専修 卒業
2005 年 株式会社ユーグレナ 取締役 就任
2006 年 東京大学大学院 農学生命科学研究科修士課程 修了
2012 年12 月、最も株式市場を沸かせた話題の1つは、間違いなく株式会社ユーグレナのマザー ズ上場とその快進撃であったであろう。注目を集める同社の特徴は、微細藻類ユーグレナ(Euglena gracilis)の利用をコアとして、食品、化粧品などで既に製品をもつことで一定の事業を築きなが ら、さらにバイオ燃料などへの研究開発を進めているその多角的な将来性だ。同社の研究開発方針 とバイオ燃料としての活用までの見通しを、取締役研究開発部長の鈴木健吾氏に伺った。そこから 見えるのは、企業ならではの継続性のある研究開発の仕組みだ。
事業性を保ちながら 研究開発を継続する体制を作る
―そもそも、なぜユーグレナに着目され、研究開発を開始されたのでしょうか。
私も、出雲(同社代表取締役)も、動物と植物の両方の特徴をもっており、栄養のバランスがいいという点に着目しました。食品として価値が高いのではないかと考えたのです。それから、火力発電所からの二酸化炭素を削減しつつ効率よく食糧生産できるという90 年代に発表された論文があって、強く興味をもちました。論文の中では15% 程度の高い二酸化炭素濃度でも生育できると記載されていました。ほかの藻類では二酸化炭素濃度が10%を超えるとダメになってしまう。ひょっとすると、研究を進めていけば、ユーグレナを上回る藻類が見つかるかもしれないけど、まずはこれだろうと。当時の我々には研究対象を選ぶ理由として十分な情報でした。
―貴社の特徴は、食品・機能性素材・エネルギーなど広範囲での展開を行われている点。立ち上げ当初から、この展開は考えられていたのでしょうか。
そうですね。バイオマス利用においては、5Fといって、Food・Fibre・Feed・Fertilizer・Fuel を、付加価値の高い順で多段階利用をするという大原則があります。そうすると事業性が成立しやすいといわれていますが、これはユーグレナに対しても同様です。たとえば、火力発電所から出ている二酸化炭素を全部ユーグレナに吸収させると、莫大なバイオマスになるわけですが、それを効率よく使えないと削減したとはいえませんし、事業としても成立しないのです。
今、当社の取り組みとして大きいのは食品の分野です。β-1,3-グルカンであるパラミロンは、抽出を行い食品にしていて、非常に力を入れて事業開発を行っています。抗アレルギー効果やさらにはプリン体の吸収抑制で特許があります。食品事業は、燃料事業と比べて早期に会社に資金を生み出してくれます。欧米だと、燃料をつくるというだけでたくさんの投資が集まりますが、日本でそういう大きな目的のために大きな資金を集めるのは困難です。このように進めるメリットは、実際に事業性を保ちながら研究開発を継続できることです。
食品事業とも連携させたバイオ燃料開発
―燃料としての利用についても、開発方針などを聞かせてください。
ユーグレナが嫌気条件でワックスエステルを蓄積するというのは既にあった知見でしたが、より詳細な条件を明らかにして特許として取得しました。他の藻類のオイルと比較すると、ユーグレナのワックスエステルはジェット燃料に加工しやすいという特徴があります。ユーグレナのワックスエステルはC14 の炭素鎖が中心で、比較的簡単な処理でジェット燃料になるのが強みです。ジェット燃料をマーケットとして選んでいるのは、将来的にも需要がなくなりにくいことが理由です。自動車は電気に置き換えることができるかもしれませんが、飛行機は、より高密度でエネルギーを集約して飛ばさなければならない。ジェット燃料の方が長期のマーケットがあると考えています。
―コスト低減については。
まずは、モノをたくさんつくるための研究開発を継続していきます。モノとは、まずは細胞をたくさんつくれるようにすることと、オイルの含有率を上げるという2 つです。食品の事業性にかかわる部分もあるので、実際に細胞をたくさん効率よくつくる方法と、それと並行して目的のオイルを多く含有させる方法も研究していこうと考えています。 その次のステップとして、発酵経路の解明や、遺伝子改変、育種といった方法を考えています。また、E.gracilisだけではなく、他のユーグレナにも注目しています。遺伝資源としても面白いですし、従来とは違う色素を持つものもあって、そういったものも活用できると考えています。こういったものを組み合わせて、現在のジェット燃料とも価格競争力をもつバイオ燃料を作っていきたい。
藻類の力が発揮できる環境・社会へ
―事業を進めるにあたって、研究者とのネットワークはどのように開拓されて行ったのでしょうか。
ユーグレナ研究会という集まりがそもそもあって、その会に所属している研究者に協力してもらえたことが非常に大きかったです。最初に大量に培養を行おうというところの考えやアイデアも、そこに所属する先生方に相談して進めてきました。研究会と連携する前から、ユーグレナ研究会の中で食としての利用価値が研究されていたのは、当社としても非常に重要だったと思います。
―研究者のみなさんや、学生さんに伝えたいことは。
一緒に研究をして、日本を盛り上げて行きましょう、という一言につきます。どのような人を採用したいか、ということだと、やっぱり想いが強くて誠実な人に来て欲しいと思っています。その想いも、我々の研究のベクトルにやや向いていればいいという感じです。ユーグレナは柔軟な組織でもあるので、自分のやりたい研究に説明がつけば、力を入れて研究活動を行えます。研究テーマとしても目新しいものが多く、まだまだフロンティアな分野です。
―鈴木さんから見て、藻類の応用と研究の今後は。
世の中は、消費者と生産者と分解者で成り立っています。その中でも藻類はメジャーな生産者です。これに関する研究をしっかりやっていくことは、世の中にとってすごく重要です。現在は地下からとってきた化石燃料を燃やしていますが、これは過去の生産者の遺産を使っているということ。これがなくなりつつある今は、新しく生産者に活躍してもらうようにしなくてはなりません。藻類の力が発揮できるように環境・社会を整えて地球上の物質循環をうまく成り立たせていきたい。そして、そのビジョンに協力してもらえる人とつながって行きたいと考えています。ゆくゆくは宇宙空間にも物質循環の仕組みを持っていきたい。人が宇宙へ行くときに酸素発生兼食糧生産のモジュールとして藻類が提案されることも多くて、そういう活用の方法も将来は十分にあると思います。