恩返しは 成功すること

恩返しは 成功すること

光産業創成大学院大学一期生 株式会社ホト・アグリ代表取締役 岩井万祐子

「生きたサプリを届けたい」。2005年9月に岩井さんが立ち上げた株式会社ホト・アグリは、補光光源や特殊作物栽培に適した光源を開発・提供するとともに、これらを使った機能性成分を多く含んだ野菜を提供する。2005年4月の光産業創成大学院大学への入学を機に、「新しいことをやりたい、新しい産業を創りたい」という想いが強くなり始めた。

悔し涙を見せられる

先生と仲間がいる農学部を卒業後、企業で「イネの生育と光の研究」に4年間従事していた岩井さんは、入学を決意するその日まで経営に関しては素人だった。入学してから9月までの半年弱の会社設立準備期間は新しいことの連続だった。「ひとりでは会社の目的・組織・活動・構成員・業務執行などについて記した定款さえ作れず、設立することができませんでした。大学の先生を捕まえて1対1で何時間も相談に乗ってもらえる環境が本当にありがたかったです」。1学年15名定員の光産業創成大学院大学は、先生と学生の距離が近く、事業進捗に対して大学全体の会議では理事長や学長からもひとりひとりの学生に対してコメントやアドバイスを行う。「悔しいとき、悩んだとき、不安なときは、同じ気持ちをもつ同期生に相談するといつも不安が解けました。最初はひとりでスタートしたけれど、先生や仲間がたくさんできました」。

日本の農業を若い力で活性化する

新しいことをしている充実感とともに、これまでに「やめられるならやめてしまいたい」と思ったことも一度や二度ではない。会社設立準備はもちろんのこと、起業した後も課題は次から次へと生まれてくる。実際に起業することで、ビジネスプランとは違う現実にも直面する。そんなとき、岩井さんはうまくいかなかったことも結果として受け入れ、次の行動を起こす。「当初予定していた農家への光源の販売だけでは、自ら卒業要件に定めた単年度黒字は達成できないので、今年は機能性野菜の販売に力を入れることにしました」。自分で動かないかぎり、事態は何も動かない。だからこそ、自分でできることを地道に実践する。たとえば、実験室レベルを超えた野菜の栽培に向けて、大学近くの農家に足を運び、生産のノウハウを学ぶ。栽培した野菜に付加価値をつけるために、先生に相談して栄養機能性の測定を充実させる。「やっとこの数カ月、私の想いに共感して協力してくれる農家の方々がでてきてくれました」。農家の方と接するうちに、岩井さんにも変化が現れた。「野菜を自分で作る喜び、より良い野菜を作りたいという農業に対する思いが強くなりました。そして、日本の農業に新しい技術を取り入れて、新しい農業を自分たちで創っていけると実感しています」。

「ありがとう」では言い表せない感謝を成果で示す

2009年3月の卒業に向けて、現在、岩井さんは博士論文の作成と同時にビジネスを軌道に乗せるために奔走する。入学から現在までの数年間は、多くの出会いがあった。「注目して、期待してくれる人がいるから頑張れるのだと思います」。増資もし、周囲からの期待も集まる中、岩井さんの中で「新しいことをしたい」という想いよりも、会社への責任感と愛着が大きくなってきた。「『ありがとう』という言葉だけでは足りないくらい、本当に多くの手助けをしてもらって会社を運営しています。会社の成功という形でしか恩返しはできません」。岩井さんは、ホト・アグリを未来の先端農業企業へとこれから成長させていく。