持つべき付加価値で、電機産業の活路を拓く 藤野 毅

持つべき付加価値で、電機産業の活路を拓く 藤野 毅
理工学部 電子情報工学科 藤野毅 教授

世界をリードした日本の家電メーカーも現在では,台頭する韓国や中国,台湾メーカーとの価格競争によって,苦しい立場に立っています。国内でさえ,海外製家電が人気となっている今,アジアのメーカーに対抗するためには,安い製品ではなく,高い価値を生み出す力が必要なのです。

藤野先生

タッチする瞬間,リスクに晒<さら> されている

会員カードや交通カードなど,すっかり定着したICカードには「暗号回路搭載LSI」という,高性能な集積回路が入っています。たとえば,交通カードを改札にかざすと,カード上のLSIと読み取り機でそれぞれ演算を実行し,正規のカードかどうかを判定することができます。当然,ICカードには個人情報につながる情報が保存されており,タッチの瞬間の通信内容から情報流出がないよう,暗号通信を行うなどの対策も行われています。しかし,実はこれだけでは100%安全とは言い切れないのです。

求められる電子デバイスとしての安全性

暗号通信に使用されている暗号鍵を,通信の内容から特定することは非常に困難です。しかし,LSI動作中の消費電力の変化を調べ,簡単に鍵を特定する「サイドチャネル攻撃」という手法が発見され問題視されています。
LSI内部での多数の信号線の「電圧変化」に目を付けたサイドチャネル攻撃では「何本の信号線の電圧が変わったか」を解析して暗号鍵を予測しています。そこで藤野先生は「どんな処理でも電圧が変化する信号線の“数”が同じになる設計」を使ってLSIをつくりました。しかし,検証の結果,新しい課題が出てきてしまいました。
なんと,消費電力の代わりに,電圧変化の際にLSIから発生する電磁波を測ると,発生する電磁波が強いほど測定位置から近く,弱いほど遠い,というように「どの線」が変化したか読み取れてしまったのです。そこで,暗号計算の手法を改良し,電圧が変化する信号線が入れ替わる工夫を加え,電磁波を用いた攻撃にも強い安全性を実現することができました。

日本の電機産業に価値を創る

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「アジア諸国のメーカーと価格競争を行うのではなく,日本が強い自動車産業や,社会インフラなど安全性が重要な分野で,『LSIをどのように使えるか』を考えるべき」と先生は語り,セキュリティの強固なLSIもそのひとつだと言います。
国内大手の電機メーカーで半導体開発にかかわっていた先生ですが,アイデアをすぐに試せる大学へと移り,将来世界で戦える技術力を生み出すことに注力しています。「未来を見据えた設計」に次々と挑戦し,企業とは別の立場から,日本の電機産業が持つべき価値を生み出そうといているのです。

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