栽培ノウハウの移転が、北国育ちのマンゴーを産み出した
弟子屈町は北海道東部に位置し、冬にはダイヤモンドダスト現象がみられるほど厳しい気候の地域だ。その極寒の地で南国フルーツの代名詞であるマンゴーの出荷が 2013 年より始まった。農場を運営しているのは、もともと通信工事を手掛ける会社が 2011 年に立ち上げたファーム・ピープル株式会社。わずか 2 年という期間で、北海道でのマンゴー栽培を成功させることができた。その背景には株式会社協和エクシオが提供する高度な農業 ICT を活用したセンサネットワークシステムがあった。
作物の能力を引き出す栽培管理システム
農場の運営ノウハウがないなかでマンゴー生産に成功したのは、「栽培現場の見える化」と宮崎県のマンゴー生産者の技術指導がセンサネットワークシステムによって実現したからだ。農場では、温泉熱を活用したハウス30 棟のすべてに、モニターと、温度、湿度や土壌の温湿度、EC(電気伝導度)などを測定できるセンサが設置されており、管理棟からデータに基づいた制御を行うことができる。マンゴーの花芽分化には、10 ~ 15℃の低温下に置き、土壌を乾燥状態にして施肥を絶つ必要があり、その後は果実肥大期に施肥を増やす必要がある。通常のハウスではこのような管理は難しいが、システムにより経験が浅い人材でも、データを参考にしながら作物の能力を最大限に引き出す栽培管理が実現できるのだ。
宮崎県と北海道をつなぎ、匠の経験を伝える
このような栽培管理システムがあっても、経験に基づく高度な判断が要求される場面が存在する。そこで、農場の様子をリアルタイムの映像と栽培データをどこでも確認できる農業 ICT の利点を活かし、宮崎県のマンゴー生産者に遠隔監視で北海道のハウス内の状況を判断してもらっている。将来的には、生産者が遠隔監視で判断した際の状況をデータとして蓄積し、経験でなく、システムとして高度な栽培技術を提供することをめざしている。
多くの人に優れた栽培ノウハウを
このように「栽培現場の見える化」と「ノウハウの情報化」がシステムとして普及することで、適した土地さえあれば、優れた生産者が行う高度な農業を多くの人が実現できるようになるはずだ。日本には耕作放棄地など、まだまだ活用されていない土地が眠っている。今回の事例のように、経験を補い遊休土地の有効活用にもつながる本技術が、意欲ある新規就農者の参入を促す一助になることだろう。