生産現場レポート クルマエビの養殖現場から

生産現場レポート クルマエビの養殖現場から

東京ドーム2個分の広さ、石垣島ならではの養殖場

同社では8万㎡という広大な敷地面積に6万㎡の養殖池を持ち、500~700万尾のクルマエビを養殖している。養殖池の海水は、目前の名蔵湾から新鮮な海水を汲み出して利用しており、およそ8時間をかけて池水は入れ替えられている。稚エビは同県内の久米島にある種苗センターから入荷しており、石垣島の立地条件を最大限に活かした養殖場となっている。また気候も有利に働いている。クルマエビは水温が8~10℃以下では摂餌をしないため、他県の多くの養殖場では4~5月に養殖を開始し、9月から年末にかけて出荷する。一方で冬季も温暖な石垣島では一年中養殖が可能である。全国的に出荷量が減少する年末から翌年4~5月にかけても出荷できるのだ。

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経験知が集約されたクルマエビ養殖

本村氏はクルマエビの養殖技術は手探りだという。同社の養殖いけすは、南国特有の強い直射日光の下にある。そのため夏季の水温は30℃を超える。直射日光を遮れば水温が下がり、クルマエビが水温上昇で死ぬことが少なくなると考え、いけすに屋根を付けたことがあったという。しかしこの試みは思わぬ結果を招いた。「確かに水温は下がりました。ところが、いけす内で日光を浴びて繁茂していた藻類が枯れました。するとそれまでエビの糞や死骸などの有機物を吸収していた藻類がいなくなったことで水質が悪化し、結果としてクルマエビが死んでしまったのです」。このように現場で得られた試行錯誤の結果を丁寧に1つずつ集約し、現在の養殖の形になったという。

現場にアイデアはある

安定的な生産が可能になった現在でも、本村氏は養殖技術のさらなる発展 を考えている。「クルマエビは砂に潜る習性があり、そのため養殖場に底砂は欠かせません。ところが底砂中の海水は滞留して水質が悪くなりやすい。もし砂のいらないクルマエビが育種できたら、いけすの環境はより安定するでしょうね」。「オスよりもメスのほうが、サイズが大きい。もし選択的に性別を選別できたら」。アイデアは現場から生まれる。我々は幸運にもその現場に立ち会えたようだ。

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『AgriGARAGE』 07号、27ページ