学会・研究会レポート オフフレーバー研究会第4回勉強会
食品において「におい」は、おいしさを左右する重要なファクターですが、一方で、ごく微量のオフフレーバー(異臭)が製造過程や流通過程で生じ、商品イメージを損ねることが問題となっています。そうした事態を防ぐための経験の共有、科学的討議の場として、様々な食品企業、食品分析会社、学識専門家が集まり設立されたのが一般社団法人オフフレーバー研究会です。今回は第 4 回目となる同会の勉強会の様子をお届けします。
難度の高いオフフレーバーの判定
においの感じ方は個人によって同一ではありません。例えば、フルフリルメルカプタンは、高濃度では強烈な悪臭と感じられますが、0.001% 程度の濃度であればコーヒーやチョコレートの芳香となり、濃度によって良し悪しが変化します。その 0.001%という数値には個人差があり、体調や加齢、環境、経験などにも影響を受けます。つまり、精度高くにおい成分を検出する技術開発も重要ですが、最終的には人が認知するオフフレーバーを、どのように検知するのか、さらにどのように対策するか、本研究会が設立されるまでは各社が手探りの状態で官能評価を行っていました。
官能評価の実践方法から、最先端のにおいイメージング技術まで
記者が会場に到着すると、10 社を超える企業ブースでは盛んに情報交換が行われ、定員 200 名のホールはすでにほぼ満席の状態でした。活気に溢れた会場では 2 つの講演が行われました。國枝里美氏(高砂香料工業株式会社)による「においに対する官能特性とフレーバーの役割」では、においが認識される仕組みからパネル(官能評価の試験官)の選定、育成にいたるまで香料メーカーでの経験を踏まえた大変わかりやすい解説がされました。また、松井利郎教授(九州大学大学院農学研究院)による「ポリマーとにおいの相互作用」の講演では、プラスチックフィルムを用いた包材のにおい移りについて熱力学的な相互作用という切り口からの解説があり、またフィルム内部の状態を可視化する技術など新しいアプローチの紹介がありました。
白熱したパネル選定についてのディスカッション
講演後に行われたパネルディスカッションでは、パネルの選定方法や訓練について具体的事例を交えた討議で盛り上がりました。そのなかでは、パネルの選定方法として、製造プロセスを熟知した専門性をもった人材を登用すべきか否かなど、現場の実情に即した突っ込んだ議論が行われていました。また官能評価能力は訓練で向上するかという議論においては、絶対的な感度は受容体や嗅細胞の数などで決まるという生物学的な限界を前提にしつつも、訓練による向上は可能との見解で一致しました。しかし、訓練によるバイアスの影響も指摘されていました。会場からも積極的な質問があり、よりよいオフフレーバー評価方法実践のために、少しでも多くの情報を持ち帰ろうとする姿が印象的でした。また、におい表現の統一化、評価用語集の制作など、さらに精度の高い基準作りを進めるよう要望が挙げられ、研究会に寄せられる期待の高さを感じました。
記者の目
会場で参加者の声を聞いてみると、それぞれの肩書に関わらず非常に気さくで情報交換がしやすく継続して参加している、という声が聞かれました。そういった雰囲気のなか、通常であれば大手企業のなかに留まりがちなノウハウを共有し、共通の課題認識をもちその解決へ会員全体で取り組もう、という運営者の想いを感じる企画内容でした。においや包装資材に関する研究開発者、今までオフフレーバー対策になかなか踏み出せなかった食品企業などは、ぜひ、勉強会への参加を検討されてはいかがでしょうか。
一般社団法人オフフレーバー研究会ホームページ
http://www.fofsg.jp/
出展:『AgriGARAGE』07号、20~21ページ