ITを活用した水産プラットフォームの再構築へ 株式会社フーディソン
第1回アグリサイエンスグランプリ出場チームを追う
農林水産分野のIT戦略には、生産者・消費者間のコミュニケーションに対する期待が大きい。水産業界にITを活用する稀少なプレーヤー、株式会社フーディソン代表取締役の山本徹氏に話を伺った。
課題とビジョンを共有し、仲間が増えたグランプリ
グランプリへの出場は、事業基盤拡大のきっかけとなったと山本氏は語る。「選考初期は水産に関する前提知識や課題を共有する難しさを感じました」と振り返るが、3ヶ月にわたる選考過程や企業賞受賞後に出会った大手事業会社との数々の面談では、自社が挑戦する課題を共有しビジョンに相手を引き込むための力が鍛えられた。飲食店向けの水産物発注ITシステム「魚ポチ」も、今では導入店舗数が2,000を超え、仕入先も販路開拓を求める関西・九州の漁港を中心に40〜50まで広がった。また山本氏の語るビジョンに引き込まれ、社員はパート・アルバイト含め43人にまで増加、社内外の仲間が増える結果へと繋がった。
生産者と消費者をつなぐ新しい場の創造
グランプリ最終選考会からわずか1ヶ月、都内にさわやかな水色でデザインされた魚屋「sakana bacca(サカナバッカ)」が登場した。ここでは単に生産地からの直送販売を行うだけではない。当たり前であった、”生産者と消費者の情報交換の場としての魚屋”を現代にリノベーションさせた次世代型の魚屋だ。例えば福井県坂井市とタイアップしたイベント実施時には、月間2,700箱の甘エビを売り切った。産地の魅力と共に魚の真の価値を伝える場として、認められた瞬間だった。また、「魚ポチ」とも連動しており、需給分析や漁港からの情報発信が可能なため、量販店では見かけない本当は美味しい珍魚も扱うことができる。産地と協力した販路や新規市場の開拓など今後の期待は大きい。
ITを活用し水産業界の構造改革を目指す
しかしながら依然として水産業界の課題は多い。特に生産現場は、量販店の大量仕入れによる価格交渉力の低下、高齢化や就労者の減少など苦境に立っているのが現状だ。ゆえに同社が構築する新たな流通プラットフォームの目的は、産地から市場まで一貫したITシステムを導入し、水産流通の最適化をはかることだ。設立から10年後の“ビジョン2023”が目指す世界は「水産業界の活性化に貢献し水産物の食をもっと楽しくする」である。2015年7月、同社は5億円の第三者割当増資を成功させた。今後も、魚の専門家や商社など多方面と連携を増やし、水産イノベーションへの挑戦を続ける株式会社フーディソンから目が離せない。(文/秋永名美)