東京農工大学 産学連携推進人材育成プログラム JITSUBO 株式会社

東京農工大学 産学連携推進人材育成プログラム JITSUBO 株式会社

JITSUBO株式会社事業開発部 部長 河野 悠介 さん

東京農工大学大学院工学府応用化学専攻 修士1年 田中 宏幸 さん

東京農工大学において、12月8日より4日間の集中講義「産業技術コミュニケーションインターンシップ」が実施された(詳細は、左表参照)。本プログラムに参加した学生は、実際に東京農工大発ベンチャーを訪問し、その結果をレポートとしてまとめました。
*本記事は、インターンシップに参加した田中 宏幸さん(東京農工大学大学院 工学府応用化学専攻 修士1年)が作成したものです。

出口からシーズを見つめる〜JITSUBO株式会社〜

2000年以降タンパク質、抗体由来の新規医薬品が開発・上市されるようになってきた。機能性タンパク質の標的に対する高い親和性と特異性を使用した医薬品は、高い効果かつ少ない副作用という特長があり、企業の注目を集めている。
一方で開発、製造コストの高いこれら生物学的製剤は薬価高騰という社会的な負担を強いている。そこで注目されているのがある程度の分子量を有しながら完全合成で対応できるペプチドだ。ただ、天然型ペプチドは代謝されやすく医薬品として開発しにくいという欠点があった。この解決のためには薬効のあるペプチド配列に人工的な構造変換を施し機能最適化を図る必要がある。
この分野に新たなソリューションを提供しているのがJITSUBO株式会社だ。同社のMolecularHiving®技術は、本来疎水性タグを保護基として利用し、溶媒構成を変化させることで、有機化合物の合成・分離精製を簡便にする技術シーズだった。同社はこのシーズを高い生産性と安全性を担保しながら高度に修飾したペプチドを合成・分離する技術へと昇華させてきた。その結果、天然型ペプチドでは達成できなかった薬理機能を持つペプチドの開発を狙えるようになってきた。医薬品分野における「実社会のニーズ」と「ラボスケールで開発されたシーズ」をつなぐ架け橋といえる。

未知の分野、事業開発への挑戦

河野悠介さんは初めからJITSUBO株式会社で働いていたわけではない。東京農工大学の大学院修士課程で有機化学を学んだ後、大手化学メーカーに就職し、新商品の研究開発を行っていた。しかし、3年が経った頃にキャリアチェンジを決意する。「これからの時代を担う若者に挑戦権を与えられていないと感じたのがきっかけでした。修士時代に所属していた研究室の先生から、当時の自分の研究成果をもとにベンチャー企業を立ち上げるから一緒にやらないかという誘いを受けて、転職を決意しました。ただ、数年ベンチャーで働いてみて感じたのは、大企業だから挑戦権がないのではなくて、回りに流されて挑戦する気持ちを持てずにいただけなのだということです」。JITSUBO株式会社という会社の立ち上げに関わる河野さんの仕事は事業開発。自社の持つ技術を大手企業に売り込みにいったり、自社の持つ技術を強化できるよう大学との共同研究を検討したりと、自社の持つ技術を多くの人に使ってもらえるように考え、行動する日々を送った。

「視点を変える」ことで洗練されていく

技術をビジネスとして市場に送り出すためには、技術に関わる様々な人の視点に立って考え、技術をサービスにまでブラシュアップする必要がある。設立当初、河野さんはMolecularHiving®技術自体を他の企業にライセンシングし、ノウハウを提供することで、ペプチドを合成したい企業の問題解決を支援しようと考えていた。しかしながら、様々な企業の担当者と話していく中で、MolecularHiving®技術のノウハウを提供するのではなく、ペプチドの加工工程をJITSUBOが代わりに行うことで、「相手企業が加工する手間を省く」というサービスが生まれたのだ。このサービスに事業の方向性を切り替えた結果、少しずつ企業からの発注が増えていったのだという。同じ技術であっても、どんな視点からサービスを考え、提供するかによって、事業化ができるかが変わってくる。どんな視点でビジネスを考えるかが事業開発の腕の見せ所であり、視点を変えることでビジネスは洗練されていくのだ。

研究室で学んだことの活かし方

「研究を進めるなかでいろいろな問題にぶつかることってあるよね。僕も学生時代、様々な文献を読んだり、いろんな人を巻き込んで議論をしたりする中で仮説を立て、その仮説が合っているかどうか検証することの繰り返しで様々な問題を解決してきました。この「仮説を立て検証する」という習慣が今の仕事にも非常に役立っています」。事業開発という仕事でぶつかる問題のほとんどは、研究と同じように答えがわからない問題だ。だからこそ、研究室で学んだ「仮説を立て検証する」というプロセスを仕事の中でも実践することで、「技術を社会に還元していく方法」を見つけ出してきたのだ。
「研究室でモチベーションを保つ一番の方法は自分の研究の強みを見つけることだよ。強みを見つけるためには、例えば市場の動向や先輩の就職先などを参考に自己の研究の強みを考えるよね。そこで考えた強みを様々な人に話してみて、教えてもらったアドバイスを咀嚼するというプロセスを繰り返すことで自己の研究の本当の強みが見つかるのでは?」。学生に向けたアドバイスとして出てきた言葉は、まさに「仮説を立て検証を行う」というもの。研究室で身につく能力は様々な分野において活用できる。言い換えれば、研究生活を通して、様々な能力を身につけることができるはずだ。