宇宙に行ったイヌ その名前は

宇宙に行ったイヌ その名前は

1957年11月3日、世界で初めて生き物が宇宙へ飛び立ちました。ソ連中央アジア・バイコヌール宇宙基地から打ち上げられた地球を周回する人工衛星「Sputnik2号(スプートニク2号)」乗っていたのは私たちにとって非常になじみの深い生き物、イヌでした。イヌの名は「ライカ」です。

 ライカ

世界で初めて宇宙にいったイヌ ― ライカ ―

ライカの宇宙飛行の目的、それは将来人が宇宙へ飛び立つことを見据え、生き物が宇宙へ行った時にどういった影響が現れるか、3つの観点から調査することでした。 第一の点は、生き物が極小の閉鎖空間に閉じこめられた時の影響です。当時の衛星は身動きがほとんどできないくらい小さなもので、そのような空間で生き物が耐えられるかを調べたのです。第二に衛星内部の環境の影響、例えば飛行中における振動、騒音などの影響が調べられました。第三に調べられたのは衛星の外の環境が生き物に与える影響です。宇宙空間は地球の環境とは大きく異なっているので生き物が宇宙に滞在している間のその影響は未知数でした。影響を及ぼすものとして考えられていたのは真空、無重力、放射線、厳しい温度変化、微少隕石などです。

これらを調査するためにライカは人工衛星に乗せられ、宇宙へと飛ばされました。これが、生き物が宇宙へ飛び立った最初の記録です。しかし、この記念すべき生き物初の宇宙飛行は、地球を出発してわずか5、6時間後、室温の上昇によりライカが亡くなるという残念な結果に終わってしまったのです。

世界でもっとも愛される生き物―イヌ―

なぜ初の宇宙飛行の実験動物としてたくさんの動物の中からライカというイヌが選ばれたのでしょうか。その理由はしつけがしやすく、飢えに強いといったイヌの性質にありました。

私たち人間にとって、ライカのように従順で飼いならしやすい犬は、昔から生活のパートナーでした。犬種ごとの大きさの違いや性格の違いを、狩猟や牧羊などさまざまな場面で利用してきました。さらにその性格の違いを知った上で、かけあわせによってまた新たな品種を生み出し、性格的な特徴を生かしてイヌを生活のさまざまな場面に役立ててきたのです。周りを見渡してみても、例えば、ウエルシュコーギーは自立心も旺盛で、八方美人ではないけども、家族には忠実です。またゴールデンレトリーバーは体を動かすことが大好きな活動的な性格で、好奇心も強いといった特徴があります。このように、イヌは犬種によって性格の傾向にはっきり差があらわれているのです。

性格を決めるホルモン

さまざまな性格的な特徴によって生活の中で活躍し、果ては宇宙飛行の実験にまで貢献してくれたイヌ。でも、どうしてイヌは犬種によってこんなにもはっきり性格が分かれるのでしょう?その要因のひとつに、「ドーパミン」があります。

ドーパミンとは脳内で働くホルモンのひとつで、ある種の神経細胞同士の間で情報を伝える役割を担っています。ヒトではその働きには個人差があり、働きが強い人は積極的で活動的、弱い人は内向的で物静かな傾向があるとされています。また病気など極端な場合、ドーパミンの働きが弱くなりすぎると、忘れっぽくなったり、行動がゆっくりになって反応が鈍くなったり、無気力になったりします。また、人と話すのが億劫になり、社交性も失われます。逆に働きが強すぎる場合は、気分がハイになってしまい発話や運動をコントロールできなくなり、おかしなことを思わずしてしまったり口走ったりします。このようにドーパミンの量は行動、そして性格を左右する要因となっているのです。

遺伝子の長さで性格が変わる?!

では、ドーパミンの働きの差はどうして生まれるのでしょうか。ヒトの場合、その原因は、ドーパミンを情報として受け取る受容体をつくる遺伝子にあることが分かっています。ドーパミンは情報を伝えるホルモンのひとつ、とお話ししましたが、受容体はドーパミンと結合して情報を受け取る役割をもっています。このドーパミン受容体をつくる遺伝子の中には、同じ塩基(ATGC)の並びが続く反復配列が存在します。実はこのドーパミン受容体遺伝子の塩基の反復配列が多いほど好奇心が強くなる、という研究結果があるのです。

ではイヌの場合どうでしょう?イヌのゲノムを調べてみると面白いことがわかってきました。ヒトの遺伝子を参考にしてイヌでドーパミン受容体に関係する同じ部分の遺伝子を検索したところ、イヌでも好奇心が高いといわれるゴールデンレトリーバーの方が、領土防衛本能が高い柴犬よりもドーパミン受容体の遺伝子の塩基の反復配列が多くなっていたのです。 もちろんイヌも人と同様に生活環境によって性格が変わってくることも否めませんが、犬種によって性格が違ってくるその要因の一つは遺伝子に隠されていたんですね。

生き物の行動パターン、性格的な部分を決めている気質関連遺伝子は現在報告されているもので30種以上に上るといわれています。性格を決める要因は様々ありますが、今後も研究が進めば今までわかっていなかった遺伝子と性格の関係が明らかになってくるかもしれませんね。

イヌのゲノムを調べていくことで人の遺伝子と似ている点、生き物で共通である点が明らかになりました。こんな風にまだわからないことを解明していくために様々な動物が研究に貢献してくれています。 ライカの実験は悲しい結果になってしまいましたが、その後も研究が重ねられることにより私たち人間も宇宙に飛び立つことができるようになったのです。そんなことを考えると、世界で初めて宇宙へ行ったイヌ、ライカの存在は非常に尊いものに感じられますね。

 

【参考文献】

伝説の犬ライカ
http://spacesite.biz/ussrspace.dog_raika.htm
脳内物質ドーパミンのはたらき
http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/kouenkai/koza/67koza_2.html
犬の気質に関する行動遺伝学的研究 
大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 武内 ゆかり