東北から生まれる新しい科学教育活動【サイエンスキャラバンプロジェクト311】
未曾有の被害をもたらした東日本大震災。
この復興のために立ち上がり、科学教育支援の団体を設立し、東京から東北地方に足しげく通う先生がいる。
平日は中学校の理科教員、休日はボランティア団体の代表という2つの顔をもつ井上先生に、
科学教育に携わる私たちができる復興支援についてお話を伺った。
日本人として胸を張りたい
今年の夏休みの8月1日から3日間、小学生を対象に気仙沼市で
ペーパークロマトグラフィーと風力発電を題材にした自由研究教室を行った。
これは、井上先生が代表を務めるサイエンスキャラバン311プロジェクト※の活動だ。
最終日、参加した小学生たちが大人20名ほどの前で、堂々と研究発表を行えるまでに成長し手応えを感じたという。
学校勤務とこのボランティア活動を両立させるのには相当の困難が伴うことは想像に難くないが、そこまでできる原動力は何なのだろうか。
それは20代に旅行したアメリカでの経験にあった。
バックパッカーとして長期滞在をしていた井上先生は、
現地の人に対して日本の良いところを胸を張って語ることができる日本人でありたいと願うようになった。
それから教師になり、日本の文化に根付いた日本の教育のよさを発信できる側になった。
たとえばカエルの解剖を行った後にカエルを校庭のすみに埋めて供養するような行為は日本特有であり、
生き物の命を考える上で大切なことだと先生は言う。
いざ、東北へ
震災後、日本国内のみならず海外からも多くの支援者が駆け付ける中で、
日本の教育者として海外に恥じない行動をしたい、その想いで井上先生は東北に向かった。
震災直後に行ったことは、各地の社会福祉協議会(ボランティアセンター)に直接赴き、
詳細にニーズを聞き取り要請のあった避難所に行って科学イベントを行うことだった。
気仙沼、陸前高田、大船渡、大槌など被害の大きかった三陸の沿岸地域をまわり、イベントの参加者は数百人を数える。
同時に、現地の科学教育に対するニーズの調査を行い論文を発表した(科学教育研究 vol.36 No.1(2012))。
その結果、科学を楽しみながら学ぶ機会は確かに求められていることが浮き彫りになり、
毎月気仙沼市で実験教室を行うことを決意した。震災が新たな教育活動を生むこともある。
今後1、2年以内には地元の教員と連携し、科学教育活動が継続して行われるように仕組みづくりをしていきたいと考えている。
私たちができること
東北での支援活動を始めて1年4か月、井上先生には、現地の外の先生に対して伝えたいことがある。
「まずは現地に行って御自身の目で見てください。
今、現地ではボランティアもプレスの数も減り、外の人々の関心が薄れつつありますが、現地はまだ復興とは程遠い状態です。
今こそこの現状を見て、そして教育者として何ができるか、みんなで考えたいと思います」。
個人ができることは限られているが、多くの理科教員が自らの目で現状を見て考えることで、
東北から未来の科学教育が見出されるのだ。
※サイエンスキャラバン311プロジェクトは、宮城県、岩手県を中心に、被災した方々に対し科学遊びのボランティア活動を行う団体で、主に理科の教育に携わる人で構成されている。