ナノテクタイヤで世界を獲る 横浜ゴム

ナノテクタイヤで世界を獲る 横浜ゴム

人がクルマに求めるものはなにか。

カッコ良さ、速さ、乗り心地…。
しかし、最も重要である点は「安全性」ではないだろうか。
止まりたいときにしっかり止まること、これが大前提でクルマは作られている。
クルマが止まるために大事なのはタイヤだ。
タイヤが路面をしっかり噛むことでクルマは止まる。
クルマ社会の安全を支えるタイヤ、その開発者の胸の内を聞いてきた。

タイヤはケーキのようなもの

横浜ゴム株式会社 三原愉(右) 芦浦誠(左)

横浜ゴム株式会社 三原愉(右) 芦浦誠(左)

そもそもタイヤとはどうやって作られるのか。
「お菓子づくりのようなものですね」と言うのは横浜ゴム株式会社の三原愉さんだ。
「タイヤ作りでは、主成分のゴムと『配合剤』というものを高温の釜の中で混ぜあわせます。
配合剤には炭素の粉やシリカなどが含まれ、それらがタイヤの性能を決定します。
材料のバランスが悪いとケーキがうまく膨らまないのと同じように、タイヤが高い性能を実現するには配合剤のバランスが重要です」。
そして新しい配合剤を考案する研究者もいる。そのひとりが芦浦誠さんだ。
「こういう配合剤を作ればこのような性能が出るのではないか」と提案を繰り返し、原料メーカーとチームとなり、高性能を導く配合剤を生み出している。

タイヤはナノテクノロジーの塊!

製品としては直径数十cm~数mにもなるタイヤだが、じつはその構造の精密さはナノメートル(1mmの100万分の1)単位の世界だ。
「現在のタイヤ技術は分子レベルでの制御を行なうナノテク産業なのです」と力を込める三原さん。
実際に、昔は配合師と呼ばれる技術者のカンと経験に委ねられてきた配合が、解析技術の発展により科学的な証拠が出せるようになってきたという。
「例えば、X線を当てることでタイヤの内部構造を見ることができ、シリカやカーボンがタイヤ内でどのように分散しているのかを調べることができるようになりました。そのデータをもとに『こんな化学反応が欲しい』『こんな配合剤が必要だ』ということがわかるようになり、開発スピードが格段に上がりました。このように内部構造を調べられるようになったのはここ5~6年のことです」。

タイヤ研究は新しい時代に入ったようだ。

今、タイヤに求められる性能は難解、だからこそ飛躍するチャンス

エントランスにて

ゴムタイヤの歴史をひも解くと、その発明は1800年代にさかのぼる。
以来、空気入りタイヤが開発され、さらには耐久性が求められてきて現在に至る。
では、今後のタイヤが目指すところはなにか。
「今、求められているのは環境面を配慮したタイヤです。
特に『ころがり抵抗』と『ウェットグリップ性能』に優れたタイヤです」。
言い換えると「転がりやすいこと」と「濡れた路面で止まること」だ。

これは日本自動車タイヤ協会が2010年に「ラベリング制度」として策定したものだ。
この2つの性能が相反するものであることは想像に難くない。
しかし三原さんは自信をのぞかせる。

「これは数十年に一度のチャンスです。日本の各社が性能を競い合うことで技術革新が進みます。いまは日本だけの制度ですが、今後すぐにヨーロッパなど、世界でタイヤの性能評価が始まります。世界各社がしのぎを削る、そんなタイミングなのです」。

芦浦さんも続けます。「日本の技術力は世界に引けを取りません。氷上を走るスタッドレスタイヤの技術も日本が世界一です。今、タイヤが熱いです。やれることがまだまだあります。競争が激しく、世界に羽ばたいていけるチャンスです」。

タイヤだけではない。ゴムは身近にあふれている

最後に、タイヤ以外でのゴム技術の応用についてうかがった。
興味深いことに、ゴム技術は車椅子のシートなどにも使われているそうだ。
「長い研究で培ったゴム加工技術や衝撃緩和の技術を活かし、座ったときにかかる圧力の分布を自動制御することに成功しました。長時間使用しても床ずれしない車椅子として、すでに実用化されています」と三原さん。
その他にも、ゴムの特性を応用した接着剤、コーティング剤が開発され、携帯電話にもその技術が活かされているそうだ。
芦浦さんが続く。「数ある素材の中で、ゴムほど柔軟かつ頑丈なものはありません。
筋肉のように伸び縮みする性質はゴム特有のものです。今後、ゴム特有の性質や性能が求められる領域は広がっていくでしょう」。ゴムにはまだまだ大きな可能性が眠っていそうだ。

取材協力

横浜ゴム株式会社:創立大正6年(1917年)10月13日

三原愉さん 芦浦誠さん

横浜ゴム株式会社

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