高・大・企業連携が開く、バイオ教育の扉

高・大・企業連携が開く、バイオ教育の扉

 岩手県にある高田高等学校の理科室。その一角にある人工気象器の中には、様々な場所の土壌や海水から単離した藻類たちが培養されている。これらの藻類は普通科の生徒10数名が参加する研究プログラムの最初の成果だ。目標は大きく新種バイオ燃料藻の発見。この研究プロジェクトは高校と大学教員、企業の三者が力を合わせることで産声をあげた。

次世代リーダー育成のための科学教育

2011年3月11日の東日本大震災から約2年。被災地では従来の産業を立て直し、新たな産業を創出することができる復興のリーダーが必要とされている。そうした人材には、地域への深い理解、豊富な現場経験とともに、先端の知や技術を見つけ出して既存の技術と融合させていく、いわば「科学を理解する力」が求められる。岩手、宮城、福島の被災三県で、高校、大学、企業が連携しながら研究を行う協和発酵キリン株式会社の「東北バイオ教育プロジェクト」はそうした次世代のリーダーを育成する新しい教育プログラムだ。

研究者が直接、高校の現場へ

「まずは、疑問をもってください。そして、その疑問に対して3回は“なぜ”と問いかけるようにしてください」。高校生に向けてそう語りかけるのは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の伊藤卓朗さんだ。伊藤さんは採択校の1つ、岩手県立高田高等学校の連携研究者として、このプロジェクトに参画している。協和発酵キリン株式会社と株式会社リバネスは研究資材、および、教育的見地から、また、伊藤さんは研究者の立場として支援を行い、高校教員ともに生徒のレベルに合わせた現実的な研究プログラムをつくりあげた。また、伊藤さんは学校を訪れ、生徒の前で藻類研究の魅力や研究の心構えなどを伝える講演を行っている。そうすることで、高校教員や生徒が直接、研究者へと相談することができる体制も構築できているのだ。

成功のカギは地元研究者・企業の協力

このプロジェクトの重要な点は、高校を拠点として研究コミュニティを構築することだ。高校教員が主体となって研究計画をゼロから策定し、研究機材の選定や連携先の大学教員を見つけ出すのは容易なことではない。そこで本プロジェクトのように、高校、大学、企業がそれぞれの役割を明確にしたうえで研究に参画することで、学内・学外ともに強固なコミュニティが構築できる。震災復興に限らず地域活性化には、商品開発や新産業創出の現場で、科学を理解した次世代のリーダーがますます必要となる。そうしたリーダー育成のための科学教育を無限の可能性をもつ子どもたちに届けるために、地元の研究機関や企業の果たす役割はとても重要なものになるだろう。