【特集】世界トップレベルのICT教育で 育みたいのは、「数値ではかれない力」(vol.19)
~和歌山発、世界が注目するICT教育最前線~
社会のIT化に沿って勢いを増すICT教育の波。総務省では、教育情報化の推進を目的として、全国の小・中・特別支援学校20校で「フューチャースクール推進事業」を実施しています。そこで今回、実施校である和歌山市立城東中学校と、海外で優秀賞を受賞するなど、小学校の事例で世界的に注目されている和歌山市教育研究所にお話を伺ってきました!
小学校での成果が、海外で優秀賞を受賞
まずは、和歌山市教育研究所に潜入です!和歌山市は、ICT の活用による子どもの基礎学力向上を図るため、2007年から全市をあげてマイクロソフト社との共同研究「W プロジェクト」を進めてきました。当初は、教員が黒板から離れて、生徒に寄り添える時間を増やす効果を期待して導入されました。その結果、予想以上の成果を次々と導いたそうです。「特に顕著なのは、レポート学習と漢字学習」と市教育研究所の岡本指導主事。「お互いの発表をみて、『色分けや、地図、写真が入って見やすくなったね』など、指摘し合いながら表現を磨き、相手(読み手・聴き手)を意識して自分の思考をまとめられるようになりました」。また、書き順等を間違えるとアラームで教えてくれる漢字学習ソフトの活用では、未活用の学級に比べ平均点が3点上がるなどの成果も。これらの成果を2009年にマレーシアで開催された「Regional Teachers Conference」で発表したところ、150人の参加者の中から10人だけ選出される優秀賞に、岡本指導主事(当時和歌山市立雑賀小学教諭)が選ばれるという快挙を成し遂げたそうです。これらの成功事例中学校への展開を見据え、2010年から同市の城東中学校が総務省のフューチャースクール推進事業に採択されました。
中学生ならではのICT活用を模索中!
「中学校の方が授業の自由度が低いので、導入はゆっくり。やっと理科や英語を中心に電子黒板が当たり前になったところ」とにこやかに話すのは城東中学校の鈴木校長。同校では、1人1台のタブレットPCを設置し、かつグループ学習用、個別学習用にタブレットの機種を使い分けるなど、多様なツールで最適なICT教育を試みているそうです。取材時に見学させていただいた理科の授業では、電子黒板で地図上の雲の動きの動画で見せ、板書でまとめていくなど、併用することで学びを深めていました。また、自分で判断できる中学生ならではの、長期休暇中の持ち帰り使用など教育効果測定の試みが広がっているそうで、今後の成果が楽しみです。
目指すは、知識と知識を繋げる深い思考
「ICTを使ってよかったのは、わかりやすい情報を効率よく得られて、考える時間が増えたという実感があること。それは、毎日子どもを見ていて感じるもので、数値ではかることができません」。学んだ知識をもとに、考えて、つなげていくような思考を育めれば理想的と鈴木校長は言います。「大きな可能性を持っているICT機器ですが、やみくもに導入して、既存の授業の質を落としてはいけない」。常にICTの専門家と議論しながら子どもの成長を見つめ続ける和歌山市の小さな学校から、また世界が注目するICT教育の事例が生み出されるかもしれません。