【読み物】DNAを使った実験で生物を学ぶ(vol.19)
~もっと高校生に遺伝子組換え実験を!~
東京都立新宿高等学校
佐藤 由紀夫 先生
2001年、筑波大学や東京大学の研究者が教育目的の遺伝子組換え実験ガイドラインを作成したときに協力したのが佐藤先生。先生向けの研修会を積極的に開催し、自身の授業でも生物基礎で行うDNA抽出実験や遺伝子組換えで作られた酵素を使った生物発光実験に始まり、生物選択者対象には、制限酵素を使ったDNAの切断実験、遺伝子組換え実験などを積極的に取り入れている。佐藤先生は生物学をどのような視点から捉えて授業を展開しているのか、お話を伺った。
ちょっとした問いかけで、実験で学べることが広がる
遺伝子組換えやDNA抽出を体験することだけが大切というわけではない、と佐藤先生は言う。「例えば、DNAを抽出して白いモヤモヤを見るだけでは『ふーん』で終わってしまいます。でもそういった実験をする中でDNAが水に溶けること、染色液で核だけが染まることを体感できる場面がとても大切なのです」。DNAが水に溶けるのはリン酸がらせん構造の外側に配置しているからであり、塩基性の色素で核が染まるのは、水に溶けたときに酸性を示す核酸が含まれているからだ。生物の授業で学ぶDNAの構造はもちろん、化学など他教科で学んだことが実験中にカチッとつながるよう、実験中に的確に注意を向けさせ、解説をすることを佐藤先生は大切にしている。それだけで、実験をやる意味がぐっと高まるのだ。
生物で学ぶことはすべて、DNAのしくみとつながっている
遺伝子組換え実験のガイドラインを大学の先生が作るとき協力したのは、バイオテクノロジーを使った技術に対して「わからないから危ない」ではなく、技術を理解した上で考えられるよう、教育現場でも遺伝子組換えを体験できる環境を作ることが目的だった。しかし、この実験を高校授業で取り入れる利点はそれだけではないと佐藤先生は考えている。授業で活用する遺伝子組換え実験は光る大腸菌を作るというもの。遺伝子はあれば必ず発現するわけではなく、発現を調整するためのスイッチが働かないといけないが、大腸菌に組換えた遺伝子も同様だ。佐藤先生は遺伝子組換え実験を通じて「発現調節」についても学ぶことができる点が気に入っているという。「遺伝子の発現調節が理解できると、生物の様々な現象が理解できるようになります。発生も代謝も、バラバラに学ぶと覚えるのが大変ですが、この仕組みが理解できればすべて1つの仕組みとしてつながります。そうすれば、生物はすごくわかりやすいってことがわかってもらえると思いますね」。
まだまだ、教材研究は続く
今、佐藤先生が挑戦しているのは、遺伝子が変わると表現型が変わる、ということを実感させる実験教材の開発だ。行うのは、シロイヌナズナの野生種と八重咲きの遺伝子をPCR法と制限酵素を使って調べる実験だ。「シロイヌナズナを自分で育てさせ、花の形がDNAで決まっていることを実感してもらいたいと思っています。また、表現型が野生型でも、八重咲きの遺伝子をヘテロに持つ個体を検出し、そこからできた種子を蒔けば一重咲きの野生型と八重咲きが3対1の比率で育つはずで、DNAとメンデル遺伝を結びつけられる良い教材になると思います。今回はあまり明確に検出することができませんでしたが、また挑戦しますよ」と佐藤先生。先生が行うどの実験も、授業でやるには高度な内容のように感じるが、実は、多様な生物の仕組みを根底でつなぐ基礎の理解につながる実験なのだ。