生産・流通・加工の現場で食品偽装を迅速に暴く~LAMP法を用いた最新の米の品種鑑定法
過去、幾度もニュースになっている精米・玄米の偽装事件。2011 年度より施行された米トレーサビリティ法では、取引記録の作成・保存が義務付けられた。JAS 法による品種とその使用割合等の食品表示だけでなく、生産、流通、加工の各段階での品種等の情報管理においても、その必要性が高まっている。そのニーズに応える迅速かつ簡便な判別キットが開発された。コシヒカリLAMP 判別キット(株式会社ニッポンジーン)である。
偽装ターゲットは「コシヒカリ」
偽装のターゲットとされやすいのは、日本が誇るブランド品種「コシヒカリ」である。「コシヒカリ」は、いもち病抵抗性を発揮するPii という遺伝子をもたない。一方「コシヒカリ」以外の品種のほとんどはこのPii を保有している。このような遺伝子をターゲットに、プライマーを設計し偽装防止に役立ててきた。逆に「コシヒカリ」だけで増幅され、それ以外の品種では増幅されないプライマーの開発も行われ、より確かな品種判別ができるように工夫されている。このような技術は、種苗管理の現場において、品種の取り違いや混入等を防ぐため導入が進んでいる。
品種判定の課題は必要機器と解析時間
このようなDNA 分析を用いた品種の判別方法は様々なものが開発されてきたが、その分析にはPCR法によるDNA の増幅と電気泳動法による検出が不可欠であった。これらの手法はサーマルサイクラーや電気泳動装置などの機器を必要とするだけでなく、各工程は数時間を要し、判別の結果を得るまでに半日から1日程度時間がかかる。そのため、流通、加工の現場での品種偽装調査には機器・時間的な制約から適用しづらい状況があった。
DNA による品種判別技術の開発を1つの大きなテーマとして長年取り組んできた食品総合研究所の穀類利用ユニットでは、流通、加工の現場のニーズに応える即時分析が可能な新しい技術として、コシヒカリLAMP 判別キットを開発した。
誰でも使える新技術
「今までのPCR 法と電気泳動法を組み合わせた方法ではごく限られた機関や企業でしか実用できませんでした。もっと速く、かつわかりやすく判別できるような仕組みを、米の生産から流通、販売まで、さまざまな人が使えるようにしたい」。研究員の岸根雅宏氏らは、最短30 分で、かつ、簡単な装置で判別ができる手法を開発した。流通、加工の即時分析のニーズに応えることができるこの技術は、専用の機器がなくてもターゲットとする配列の増幅が可能な「LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法」(※)というDNA 増幅法を活用している。LAMP 法は、ターゲットとなる配列から6 つの領域を選んで組み合わせた4種類のプライマーと、鎖置換活性の高い特殊なDNA合成酵素を利用して増幅させる方法である。その特徴は、プライマー結合部位にループ構造ができるように設計されたプライマーを活用することにより、ループ部分に一本鎖を保持し、次のプライマーのアニールをも可能とすることで、合成方向にある二本鎖DNA を鎖置換により解離しながら自らの伸長反応を進め、連続的に増幅することができる。増幅の結果は、溶液の変化を目視で判別することが可能である。
▲ 米の品種判別技術は、簡易スクリーニングから高精度鑑定までにわたって活用できる。
これにより、DNA とプライマー、酵素を混ぜて63℃に保温するだけで、40 分で米の品種判別が可能なキットが開発された。コシヒカリに他品種が混入した場合、1% の混入から検出が可能である。「今は『コシヒカリ』が一番のターゲットですが、別の品種でも鑑定ができるように開発を進めていきます」。設備がなく、PCR を行うことが難しかった事業者や生産者に需要が見込まれる。さらには、炊飯米、米類加工品に使われる原料米の品種の判別など利用現場は広がるものと考えられる。
▲コシヒカリLAMP 判別キット(株式会社ニッポンジーン発売)
※栄研化学株式会社が開発した、迅速、簡易、精確な遺伝子増幅法
取材協力 岸根 雅宏 さん
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
食品総合研究所
食品素材科学研究領域 穀類利用ユニット