SBN182_脳の正確な神経回路を作る仕組みが一部明らかに

SBN182_脳の正確な神経回路を作る仕組みが一部明らかに

 

みなさん想像してみてください。世界の人口は70億人、その2倍の140億人が、それぞれ10000人と糸電話でつながっている世界を。極めて複雑なネットワークで、管理が大変そうだと感じるのではないでしょうか。実は、そんな世界がみなさんの頭の中に広がっています。ヒトの行動や学習を司る「脳」は約140億個の神経細胞が集まり、それぞれがシナプスを通じて8000~10000の神経細胞と情報交換していると言われています。それほど複雑な脳では、不要な接続や混線をなくし、効率的な神経回路を維持する仕組みがあると考えられていましたが、詳しいことはわかっていませんでした。

脳内の情報交換に重要なのは、シナプスを作る樹状突起です。樹状突起はシナプスを作るために神経細胞から伸びたり、不要なシナプスを除去するために縮んだり、枝分かれをしたりとダイナミックに動いています。今回、理化学研究所の下郡智美さんらは、樹状突起の動きによるシナプス除去の仕組みを明らかにするため、マウスの大脳皮質で見つかっていたBtbd3という遺伝子に注目しました。実験で、Btbd3遺伝子の働きを阻害すると、大脳皮質で本来除去されるはずの樹状突起が除去されなくなったのです。そして、普段はBtbd3が働いていない神経細胞で無理やり働かせると、樹状突起が除去されるということがわかりました。これらの結果から、Btbd3が樹状突起の除去にかかわっていることが明らかになりました。

実はこのBtbd3、マウスで見つかっていたものの、働きが全くわかっていない遺伝子でした。そんな遺伝子がなぜ研究で使われたのか、そのヒントはショウジョウバエにありました。もともとショウジョウバエでは、脳で樹状突起の除去に働くbroadという遺伝子が見つかっていました。broadから作られるタンパク質は特徴的な構造を持っており、Btbd3はそれと同じ構造を持っていたのです。そのため、マウスでも同じ働きをしているのではないかと予想され、今回の研究に用いられました。このように、他の生き物での研究成果をもとに、遺伝子機能が発見された研究は数多くあります。見た目は全く違う昆虫と哺乳類ですら遺伝子で見るとよく似ている、生き物のおもしろいところだと思います。

参考:http://www.riken.jp/pr/press/2013/20131101_1/

 

記者コメント:

僕もショウジョウバエで脳の研究をしていました。ハエとヒトで共通の仕組みが働いていることを知ったとき、生き物はみんな仲間なんだなとしみじみ思いました。(戸金 悠)