生産現場レポート―漁業復興の現場から 東北ニチモウ株式会社 石巻工場
宮城県石巻市にある石巻漁港。底引き網や遠洋まき網漁業で栄える全国トップクラスの漁港だ。また、漁業を支える企業が集積し、地域全体で機能的に連携、産業を形成する。1910 年創業の水産専門商社、ニチモウ株式会社の子会社・東北ニチモウ株式会社の石巻工場も、漁業を支える事業の1 つとして、同地区にあった日和山工場に加えて2008年10 月に石巻市魚町に新設されたまき網専門の工場だ。
2013 年8 月、石巻工場を同社社長の小柳和幸氏にご案内いただいた。「工場の外にある、この1 つの山で1 隻分の網になります。1 つあたり、10 t トラックで4 回に分けて運ばなければなりません」。想像以上のスケールだ。天井に設置されたクレーンが動き、幅1,500 m、縦200 m にも渡る巨大な網を引く。熟練の工場員たちもそれに合わせて機敏に網を広げ、穴がないか、一列に並んで一斉にチェックを開始する。穴があれば、それだけ漁の効率が落ちる。その効率を左右する重要な作業だ。「全て手作業です。修理がほとんどの仕事ですが、いまはちょうど漁の切り替えの時期。フル稼働です」と、小柳氏は笑う。
2011 年3 月11 日、あの震災と大津波が襲い、石巻に壊滅的な打撃を与えた。同社の日和山工場はほぼ壊滅、石巻工場は奇跡的に原型をとどめたものの、海水が工場内に入り、網も全て流された。しかし、網がなければ漁に出ることもできない。ニチモウは被災直後から復旧作業を開始、翌月の4 月下旬には石巻工場を再稼働した。
工場の見学後、小柳氏と一緒に石巻漁港を一周した。震災の傷跡はまだ生々しく残るが、基礎的な復旧が進み、仮設の魚市場も稼働している。震災前の活気を取り戻すには長い時間がかかるかもしれないが、応急復旧で舗装された路面の左右に新設された加工工場が並び、地域には復興への強い意思が溢れる。2010 年に13 万トン全国3 位だった水揚げ量は、震災のあった2011 年には2 万8 千トン(同20 位)まで落ち込んだが、翌2012 年には5 万4 千トン(同12 位)まで回復している(時事通信社データ)。
復興現場の最前線で奮闘する小柳氏は、漁業の将来に対して、研究界にどのような期待をもっているのか、聞いてみた。「私たちとしては、船が使われて初めて役に立てる。そのためには生産者に儲けてもらわなくてはいけなくて、魚が減っている今、魚をいかに高付加価値で市場に出せるか、という研究に期待しています。鮮度維持に関する技術、付加価値の高い加工技術などですね。そういった最新鋭の技術や設備に期待しています」。
漁業全体の課題解決に向けた洞察に、明治時代から日本漁業の近代化と効率化に貢献してきたニチモウの前向きな姿勢を感じた。