微生物は マイクロマシンの宝庫
微生物は地球上のありとあらゆる場所に分布している。しかも、多種多様な機能を持っている。例えば、「高度好塩菌(こうどこうえんきん)」で画像検索してみると真っ赤な湖の写真などが出てくるが、これは微生物の仕業である。今回は変わった微生物とその特殊能力について紹介してみたい。
地磁気を感知する微生物
磁性細菌と呼ばれる細菌に磁石を向け、顕微鏡で観察すると、S極あるいはN極側に移動する。磁石を反転させると泳ぐ向きも反転するので、磁力を感知していることがわかる。磁性細菌の種類によって異なるが、どの種も50〜100nmのほぼ均一な大きさ、形状を持つマグネトソームと呼ばれる単結晶の磁性粒子を体内に持ち、これがコンパスの役割を果たしていると考えられている。さらに、地中海で発見された磁性細菌MO-1は、7本の鞭毛と呼ばれる構造体を使って300µm/秒と、大腸菌などに比べて10倍以上の早さで移動する。大阪大学の難波啓一教授ら低温電子顕微鏡を用いた電子線クライオトモグラフィー法で明らかにした鞭毛の構造から、鞭毛を動かすモータータンパク質の機能に注目が集まっている。
光を受信するアンテナ
冒頭で紹介した高度好塩菌の中には、ロドプシンという光を感知するタンパク質を持つものがいる。4種類のロドプシンがあることが知られているが、うち2種類に関しては細胞の内外にイオンを通す門の役割を果たしており、その機能は光で駆動される。残りの2種類は光に反応して、反射行動を引き起こす引き金の役割を果たす、いわば情報変換器だ。前者がチャネルロドプシンと呼ばれるのに対し、後者はセンソリーロドプシンと呼ばれる。いずれもタンパク質を中心にレチナールという化学物質が存在する。レチナールは特定の吸収波長の光を受けると構造変化を起こし、これがロドプシンを駆動する引き金となる。光でスイッチのオンオフを切り替えられる機能は、他の分野で活用されるケースも出ている。脳の神経回路の研究がそのひとつ。神経細胞はイオン濃度を一定方向に連続的に変化させることで、情報を伝達している。このイオン濃度の変化をチャネルロドプシンでコントロールしようというわけだ。
今回紹介した特殊な機能を持つ微生物はほんの一部。その精緻な分子装置は現在のマイクロマシンではまだまだ実現できていない機能を持つもの多い。工学研究の新しいヒントを、生命科学から得るというのもまた研究の面白さのひとつではないだろうか。